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2025-12-19 00:00
中露脅威論から大転換ートランプ新安保戦略ー
鍋嶋 敬三
評論家
トランプ米大統領の「国家安全保障戦略」(NSS2025)ー12月4日公表ーは中国、ロシアを米国への直接的脅威の対象とみていないことを鮮明にした。ウクライナ戦争の停止交渉を米国の核心的利益とし、その目的として欧州経済の安定や対ロ戦略的安定の再構築を掲げた。欧州については北大西洋条約機構(NATO)の同じ同盟国にもかかわらず、対ロ関係で「自信のなさ」を論難する冷淡ぶりである。第一期政権のNSS2017や民主党バイデン政権のNSS2022からの根本的転換になった。核心的な国益の対象地域として第一に麻薬や移民問題を抱える中南米を含む西半球(南北アメリカ大陸)を挙げるなど「米国第一主義」のトランプ世界観を色濃く反映している。それは「米国とは伝統も歴史も異なる国に民主的、社会的変革を押しつけず良好な関係と平和的な関係を求める」というもので、これを「柔軟な現実主義」と名付けた。
振り返ってみれば、第1期のトランプNSS2017はロシアと中国を「修正主義(現状変更)勢力」と規定した。中国は「インド太平洋で米国に取って代わろう」と求めて中国有利のように地域を再編しようとしているのだと。トランプ氏は2017年12月18日の発表記者会見で中国を「アメリカの影響力に挑戦する競争勢力(rival power)」と位置づけた。ロシアのウクライナ侵略後発表されたバイデンNSS2022はロシアを「国際秩序の主要な要素を覆す目的を持って帝国主義的な外交政策を追求してきた非常に危険な国」と決めつけた。中国は「国際秩序を作り替える意図を持つ唯一の競争相手」として危機意識を露わにした。過去の二つの安保戦略は政権中枢の安全保障や外交のエリートたちが米国の伝統と政治的イデオロギーに基づき全世界的視野から練り上げたものであった。しかしトランプ戦略は上記のように「米国第一」の世界観が色濃く反映されたものだ。「核心的な国益」の対象地域の第一に西半球を挙げたうえで100年前の「モンロー・ドクトリン(主義)」の適用を掲げたのはその表れだ。米国の欧州への不介入と引き替えに欧州諸国の中南米・カリブ海への干渉排除をうたったものだったが、今回の排除の相手は中国である。一世紀を経て再び米国による干渉の論理として採用された。
さて軍事的抑止力である。トランプNSS2025も「力こそ平和の源泉」として軍事力重視に変わりはない。2025年10月のアジア歴訪の成果として「自由で開かれたインドー太平洋(FOIP)」への米国の関与を再確認、「インドー太平洋における同盟関係の構築とパートナーシップの強化」を明記した。安倍晋三元首相が提唱したFOIPの概念を改めて表明したことは日本にとって心強い。常に米政府中枢に働きかけ続けることが肝要だ。台湾を特に取り上げたことが注目される。世界有数の半導体生産地のためもあるが、台湾は第2列島線に近接し北東アジアと東南アジアの分岐点にある。世界の海運の3分の1が南シナ海を通り米経済に大きな意味があるためだ。「米国は台湾海峡の一方的な現状変更を支持しない」とする「長期にわたる台湾政策を維持する」と明言した。2025年中も空や海からの台湾包囲の軍事圧力を強めている中国・習近平指導部への強い牽制になったであろう。
台湾有事に備えて同盟国との共同防衛を強調したのも注目点だ。第1列島線への侵略阻止は「米国単独ではできない」ため、日韓など同盟国は軍備強化のため軍事費を増加すべきで、同盟国や有志国に対し「港やその他の施設の米軍利用の強化を強く求める」と主張した。有事の際の米軍の兵力投入に備えて港湾や空港などの使用を含めた共同防衛体制の構築に向けた布石をしたのである。台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁を機に中国が対日批判を世界的に展開し、日本向け旅行の制限など経済的圧力を強めてきた。日米安保条約を安全保障、外交の基軸とする日本政府は次期国家安保戦略の繰り上げ策定、自衛隊とインド太平洋米軍との統合作戦態勢をスピード感を持って推進する必要に迫られている。
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