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2007-03-14 00:00
国家安全保障体制の再設計に関する政府議論は不十分である
石原雄介
大学生
安倍政権発足から半年近くが経ち、いよいよ首相が特に熱を入れる国家安全保障体制の再設計の作業が具体化され始めた。本稿では、先月末に相次いで文章化された「国家安全保障に関する官邸機能強化会議の最終報告」および「官邸における情報機能強化の基本的な考え」を材料に、政府議論のあいまいさ・不十分さを指摘する。安倍政権が行う一連の作業は政策決定とインテリジェンスにおいて三つの変革を目指している。(1)日本の統一的国家安全保障戦略の策定体制整備、(2)縦割り行政の打破、(3)緊急時・有事の際の即応体制の強化である。このような方針をアメリカの National Security Council とのアナロジーで論じる言論が多いが、本稿では上記の三つの変革ポイントを論点に、日本が持つ既存の安保体制との比較において論じてみたい。
日本の統一的国家安保戦略の策定体制整備に関しては、既に存在している安全保障会議をメンバーや機能において強化するというアプローチがとられているが、具体的な中身を見ると実は「役割と権限」の両面できわめて曖昧なままになっていることがわかる。新設の国家安全保障会議は「閣議にとってかわるものではない」と明確に権限の限界を述べる一方で、そこで策定される文章のもつ権威については言及がない。また、期待される機能の一つである国家安全保障戦略の策定に関しても、防衛大綱の策定などにおいて既存の安全保障会議やアドホックな有識者懇談会がこれまでに大きな役割を果たしてきていることに鑑みれば、新設の権限の無い国家安全保障会議は単なる名前の変更以上にどういった新しい価値を生み出していくのかが、わかりにくい。文章を読む限りでは、国家安全保障戦略に関する新たな公文章の作成を目指している点と事務局を作ることで制度化を進める点が実質的な変化として指摘できるものの、事務局や新たに策定される文章が持つ役割や拘束性の不明確さが目立つばかりである。実は、国家安全保障担当補佐官の「役割と権限」についても同様に不明確であるのが現状である。
したがって、日本版NSCの議論がメディアを賑わせているのとは裏腹に、新設の会議とポストの「役割と権限」は非常に曖昧で、既存の制度への実質的インパクトはそれほど大きく無いといえる。例えば、これまでも歴代の内閣情報調査室の経験者がいろいろな場で語っているように、権限のない機関には外務省や防衛省からの情報での連携において支障が出る。このことは、ミサイル防衛やアメリカとの周辺事態での同盟発動などの緊急事態において、致命的な混乱を日本の政策決定過程にもたらす原因となりえる。また、権限の曖昧な国家安全保障担当補佐官が外交の場でどれほど他国から相手にしてもらえるのか、どれほど日本国の代表性を帯びていると認識されるのか疑問が残るし、外務大臣や防衛大臣との分担・連携も場当たり的にならざるを得ない。つまりこのことは、政策策定における新設の会議とポストのもつ「役割と権限」の曖昧さが、国家安全保障戦略策定という観点に留まらず、他の二つの目標である「縦割り行政の打破」「緊急時・有事の際の即応体制」においても大きな問題を生み出す危険性を示している。
自民党の若手の間では、議員立法で首相補佐官に権限を与えることを目指す動きがあるようだが、それは本稿の指摘する問題の本質的解決にはならない。まずなされなければならないのは、安倍政権が目指す国家安全保障体制を官邸・外務省・防衛省などを包括した全体像として示すこと、そして、新設・既存両方のポストと機関がもつ役割と権限の両面にまで具体的に踏み込むことだろう。残念ながら現状の議論は、官邸機能の強化という抽象的な方向性にとどまり、新設・既存のポストや機関がもつ「役割と権限」が見えてこないままである。名前ばかりが先行し、「役割と権限」のあいまいなポストや機関が新設されては国家安全保障全体にとってマイナスになる可能性すらある。外務省・防衛省などを包含した国家安全保障体制の全体像を「役割と権限」の問題に具体的に踏み込んで再設計する作業が、今後の政府レベルでの議論に求められると思う。
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