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2013-07-04 00:00
米中が「お互いさま」で引き分けたサイバーアタック問題
川上 高司
拓殖大学教授
6月7、8日の米中首脳会談ではサイバー戦争が大きなテーマだった。中国からのサイバーアタックやハッキングのしつこさに対して、オバマ大統領自らが米中首脳会談で苦言を呈し、追及するはずだった。だが、米中首脳会談が終わってみれば、サイバーアタック問題は淡々とやりすごされた。それはオバマ政権が思わぬところからパンチを食らったからである。アメリカは積極的に電子情報の監視を行っていると、会談直前にリークされたのだ。
米中首脳会談が予定されていた前日、英ガーディアン紙に「NSA(アメリカ国家情報局)は、国内外で電話回線を監視している」とのリーク記事が掲載された。さらに7日には「PRISM]という機密プログラムの存在がガーディアン紙に暴露され、世界中の話題をさらった。これは、NSAがグーグルやフェイスブックなどのプロバイダーを通して個人情報やメールなどを収集することを可能にしたプログラムである。2007年にはマイクロソフト、2008年にはヤフー、2009年にグーグル、フェイスブック、2010年にはユーチューブ、2011年にはスカイプやAOL、そして2012年にはアップルがこのプログラムに参加し、協力している。NSAはこれらのプロバイダー回線を使って契約者のメールや会話、ドキュメントなどネット上を駆け巡る電子情報を、直接かつ思う存分に収集できるようになっている。
ブッシュ政権は9.11テロ後「テロとの戦争」を宣言して電子情報の監視に乗り出した。そのとき国民はテロの直後ということもあって「仕方ない」と監視や盗聴を受け入れた。だが10年が過ぎ、イラク戦争も終結している今、リベラルな大統領の下でさらに監視が強化されていたということに、国民は驚愕した。ギャロップ社の直近の世論調査によると、盗聴やネット監視を是とする国民はわずか37%で、53%は反対している。百歩ゆずって、アメリカ国民は自らの大統領の政策だから甘受できるかもしれない。だが他国にとっては、なぜ監視されなければならないのか、根拠も正当性も全く見つけることができない。このネット監視は、アメリカ国内に留まらず、国際問題に発展しそうである。ドイツでは自国が監視されているのかどうかの疑惑が国民の間で大きくなり、来週開かれるオバマ大統領とメルケル首相との会談では、監視疑惑は大きなテーマになる可能性が高い。オバマ大統領はヨーロッパで批判の嵐にみまわれる覚悟が必要だろう。さらにNSAは数年来中国や香港のネット監視を行っていることが、今回のリークで発覚した。この点に関しては中国政府はアメリカ政府に真偽を質すつもりのようである。
6月6日、オバマ大統領はカリフォルニアで民主党の支援者であるIT企業の幹部たちと会合を開いていた。参加していたのはアップルやグーグルなどまさにネットの巨人たちであり、PRISMに協力している企業群である。その会合にあわせてのリークだったのかどうかはわからないが、このリークで首脳会談でのサイバー問題のトーンが下がったことは間違いない。中国にしてみれば、サイバーアタックもネット監視も「お互いさま」で、ひきわけに持ち込むことができたのである。このリークは中国にとっては絶妙のタイミングだった。ちなみにロシアのプーチン大統領は「国家の情報収集は違法ではない」とオバマ政権を擁護している。サイバー問題でも米中露は協調路線を行く。
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