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2006-10-28 00:00
台湾のためにも、日中関係を悪化させるべきではない
須賀建文
語学教師
『日本国際フォーラム会報』2005年秋季号「羅針盤」欄に掲載されている澤英武先生のエッセイ「密かなる台湾戦略を」を拝読いたしました。私自身は、1997年から2000年までの間、国立台湾大学日本総合研究センターにて当時法学院長の許介鱗先生のご指導の下戦後台湾史と台湾500年史を学びました。また母や叔母達が日本統治時代に日本教育を受け、台北市立樺山小学校に学び、台北一高女と台北三高女に学んだという背景の家庭に生まれ育った身です。そのため私自身も、幼い時分より、母親や叔母達から、戦前の日本時代の執政環境がどのような世界観だったかは、大体話を通じて存じております。また特に戦後の国府執政に移ってからの台湾の方々の艱難辛苦は、察するに余りあるものだったことも十分理解しております。
ただ誤解しないで戴きたいことが一つだけあります。日本は台湾の方々を守るためにこそ、中国との関係は悪化させるべきでないということです。澤先生はご自身のエッセイのなかで、「共産党独裁の中国はやがて破綻し、ソ連のように、解体される可能性がある」とおっしゃっておられます。では、現在の北京政権が本当に崩壊したら、どうなるのでしょうか?まず分かりやすいこととして、治安が崩壊し、中国社会が崩壊し、各省がばらばらになるでしょう。大陸からの難民が台湾はおろか、日本の九州にも大挙して上陸してくるでしょう。なかには武装難民も混在しているかもしれません。経済的に現在の日本も台湾も、アメリカ以上に中国市場に依存しております。治安が崩壊し、混沌と化した中国が、日本経済や台湾経済、更にはASEANやインド各国との経済関係に悪い影響を及ぼす懸念は非常に高いものとなるでしょう。
経済関係だけに留まりません。中国難民の流入により、日本や台湾、更には韓国における犯罪率の激増も極めて深刻なものとなるでしょう。国からも社会からも保護されない難民は、飢餓から逃れるためには、いかような犯罪にも手を染めてしまうものです。そこに北朝鮮の核開発・体制崩壊の危機等の問題も加われば、北東アジアから東アジアは、唇滅びて歯寒き状況に陥る訳です。台湾の方々(特に民主進歩党支持派の方々)にしてみれば、大陸中国の体制崩壊は、独立を宣言できる絶好のチャンスとはなりましょう。私もそのような悲願の気持ちは理解できます。ですが、その代償は台湾だけでなく、東アジア全域にとって非常に高いものとなる可能性があるのです。
次に「『台湾は中国の一部』とする北京の居丈高な外交戦略に、日本も米国も押されっぱなしである」とおっしゃられております。これはとんでもない事実誤認だといわねばなりません。なぜならば、日本政府の公式見解は、1945年にポツダム宣言を受諾し、台湾および澎湖諸島の執政を放棄をして以来、過去60年間にわたり、台湾の帰属先を中華人民共和国に委ねたことは一切ございません。台湾が「中華人民共和国の一部」ではないことは、事実そのものではありませんか?この基本点を、日本政府がいつ北京側に譲ったのでしょうか?日本国内での学者や評論家の意見ならば、色々出て参りましょう。自由な発言が許される社会ですから。しかし少なくとも、日本政府がそれを承認したという話を、私は一度として聞いたことがございません。ましてや民間となれば、日本国民は保守層にも革新層にも熱烈な台湾ファンが大勢おります。これほどまでに素晴らしい麗しの島を、わざわざ中国に差し出すなんてもっての他、というのが両派の本音のはずです。ですから心配はいらないと思います。
最後に「中国の重圧下にある台湾人」と澤先生はおっしゃりますが、私からみれば、というよりも一般の日本人からみれば、日本語に深く精通しており、更に中華文化をも保持している台湾の方々(最近は英語が達者で、英米圏の大学に留学されておられますが)は、「重圧下で抑圧される」どころか、「アジアで最も成熟した民衆文化の自由を満喫し、世界中の台湾ネットワークを通じて好きな国に自由にアクセスしている器用な人達」との印象を強くもたれていると思います。偏見無く世界を見聞し、各国の民情に触れ、友人をつくり、お金儲けをし、あるいは外国人と喧嘩をしながらも上手に交渉する能力とバイタリティもつ台湾の方々は、単に「日本だ。中国だ」云々の枠組みを超えて、現代アジア全体に好ましい潤滑油的文化効果をもたらしてゆくものと、私はむしろ期待しているほどです。かつての国民党独裁政権時代ならばいざ知らず、戒厳令が存在しない現在の台湾民衆が、今尚抑圧の下で怯えて暮らしているとは、少なくとも私には信じられません。
日本は毅然とした態度で、台湾の友人として「明確な態度」を示すべきであると澤先生はおっしゃられておりますが、謹んでお断り申し上げます。あまり極端にやったら、台湾はまた日本統治時代に逆戻りしてしまうではありませんか!あなた達は「自立自尊」を達成させたいのではないのですか?陰ながらサポートし続けますので、今後も日本とのお付き合いと変わらぬご好意のほどを、よろしくお願い申し上げます。できれば中国のことについて、今後も沢山教えて戴ければ、大変感謝申し上げます。それでは失礼いたします。
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