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2012-03-02 00:00
戦争が出来なくなったアメリカ
川上 高司
拓殖大学教授
イランのアハマドネジャド大統領、アフガニスタンのカルザイ大統領、パキスタンのザルダリ大統領がイスラマバードで三頭会談を行った。これは画期的なことである。なにしろイランとパキスタンはシーア派とスンニ派という宗派の違いと国境沿いのバロシェスタン地方をめぐる問題で険悪だった。アフガニスタンは、パキスタンがタリバンを支援してアフガニスタンの政情を混乱させていると非難していて不信感が強い。イランは、アフガニスタンのシーア派を政府が弾圧していると非難してきた。まるで3すくみ状態でお互いに不信感を募らせていたのだが、これら3国の首脳が集まって平和的な会談をしたことはこの地域の情勢が大きく変わる可能性を示唆している。
会談では、今後の政治、経済、国防から学問に至る包括的な交流と関係の構築に合意した。鉄道や道路も国境をまたいで整備する計画だが、中国からパキスタンに通じるカラコルムハイウエィが西方のイランまで繋がるとしたらユーラシアを走る壮大な道路網ができあがることになる。最も特筆すべきは「イランがイスラエルから攻撃を受けたらパキスタンもアフガニスタンもイランの味方をする」という合意だろう。これではアフガニスタンの米軍は人質同然であるだけでなく、そもそも同盟国であるパキスタンを敵にまわすことはアフガニスタンでの戦争はもとより撤退時にも大きな問題となる。そうならないためにはアメリカ政府は全力でイスラエルのイラン攻撃を阻止しなければならない。
アフガニスタンから米軍が撤退すれば空白が生じる。しかもアメリカは今後はアジア太平洋地域へピボットを移すと宣言しているから中東に戻ってくる可能性は低い。そのアメリカの引き波に乗ってイランはその存在感を東へと拡大しようとしているかのようである。折しも同盟国であるシリアが政情不安であり、シリアの現政権が転覆すればイランの孤立は必至である。だが東にパキスタンとアフガニスタンという同盟国を作れば孤立どころか強い影響力を持つことが可能となる。イランのこの巻き返しは見事としかいいようがない。
この三頭会談でパキスタンはイランからの天然ガスの安定供給の約束をとりつけた。またカルザイ大統領はイランとパキスタンのバックアップをとりつけて、国内での政治力を取り戻しアメリカなき後のアフガニスタンを安定させたいとの思惑がある。世界各地はアメリカ抜きでご当地はご当地で平和を目指す。このような三頭会談が実現すること自体にアメリカの存在感の低下がはっきりと表れており、今後のトレンドは「ご当地主義」(アメリカ抜きで当事国間で枠組みを作る)と表現できる。そしてアメリカもアジア太平洋の当事国としてご当地主義を目指すのである。
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