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2026-05-25 00:00
民主制の名を借りた専制もある現代
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
「トランプ米大統領の中国訪問に続き、北京の人民大会堂で中ロ首脳会談が行われるとすれば、ロシアのプーチン専用車であるドイツのメルセデス・マイバッハが人民大会堂のどの位置に停車するか」見ものである---と前回書いたが、そのプーチン大統領の到着模様は、日本のテレビ映像でも瞬間的だが見えた。トランプ米大統領専用車と大差ない位置から降車したプーチン氏は、コンクリ路面から人民大会堂の正面階段の赤い絨毯の先端で待つ習近平主席まで歩み寄った。絨毯は習近平主席の足元で途切れていた。人民大会堂は外国賓客の歓迎式典が開催される建物だが、やはり清朝儀礼の伝統での臣下の扱いがプーチン大統領にも及んだ感。実際、今回の訪中は北京詣の感に満ちていた。トランプ訪中とは対照的に共同会見も行われたが、中ロはより深い関係で結束と言うトーンに終始した。習近平主席の自信の表情に比べ、プーチン大統領には地味な印象がテレビ映像から見えたものだが。ところで日本では、かつて民間初の中国大使に登用された大手商社トップが、北京駐在大使を退任後にテレビによく招かれたが「中国主席は皇帝と同じなんですよ」と得意げに語り、視聴者に違和感を与えた。出身商社では見事な経営手腕で業績を飛躍させた人物だが、転じた中国大使時代の言動は、日本国内でたびたび物議を醸した。彼をして語らせた中国主席の姿は現代のロシア大統領訪中でもその空気が見えた。受け身のプーチン氏と併せ、中ロ関係の変化を見せ付けた。
一方、先発のトランプ米大統領訪中での会談で、習近平主席が古代ギリシャ歴史家のことを引用したことが各メディアから伝えられ、日本の国際政治学者なども敏感に反応した。だが、覇権国と急激に台頭する新興国とのパワーバランスの変動で意図せず戦争へと陥ることを戒めるこの古代ギリシャ故事警句を、はるかなる東洋の指導者が米中関係で発するのは今回が初めてでないだけに、トランプ側は鼻白む思いだったろう。と言うのはこの手のものは、疑心暗鬼を戒める今回の習近平主席発言を遥かに超える教訓故事、米大統領ケネディの古代ギリシャの故事「ダモクレスの剣」発言のほうが歴史的に余りにも有名で支配的だからだ。ケネディの国連演説(1961年)でよく知られるのは「人類は核という名のダモクレスの剣の下で暮らしている。細い糸でつるされた剣は、いつ切れるか分からない」と言うもので、このケネディのダモクレス発言は、東西冷戦当時の世界を駆け巡った。
われわれは英語教科書の「ディオゲネスとアレキサンダー大王」の逸話ぐらいしか知らないが、米欧では古代ギリシャ・ローマ史は幼年から学ぶ。ドナルド(トランプ)少年など米東部の商工業者子弟が学んだ寄宿制軍人学校「ニューヨーク・ミリタリー・アカデミー」では古代軍事史は必須。それどころか米東部の幼稚園での男の子の絵本や塗り絵学習は、歴史上の将軍軍人の故事の場面ばかり。トランプ氏は、おそらく習近平主席の有能なスピーチライターの書いたであろうこのギリシャ警句文言に「友人の習近平主席だが、青くさいことは言われたくないね」と言う気持ちだったと思われる。筆者には、暴君的トランプ氏の毀誉褒貶、朝令暮改に大統領令乱発、それどころか米大統領の身でありながら巨額の証券取引を重ねていることなど、公的身分における倫理観欠如にあきれること多々。だが米政治制度ではトランプ任期は2029年1月まで。米憲法(修正第22条)は大統領に2期を超えて「選出」されることを禁止している。今年11月の中間選挙で共和党が議席を大幅に減らせば、トランプ氏はレームダック(死に体)にもなり得る。常識的に次期大統領は米建国理念に沿う人物が誕生すると信じたい。それでもなお米憲法は「継承」に言及していないことから、2028年の大統領選でトランプ氏が副大統領候補になり、当選後の大統領候補は就任直後に辞任してトランプ「副大統領」が「継承により」大統領になるという奇策もささやかれる。だが訴訟が起これば米最高裁はこれを合憲と認めることはおそらくないだろう。
ところがロシアではプーチン大統領の場合は、実際その奇手を行なった。2004年に再選された後、当時の憲法の連続三選禁止に従い2008年に退任し、スワップの形で僚友メドジェーエフ第一副首相が大統領に登場。2012年の大統領選挙で復帰を果たし第4代大統領に就任。2020年には、憲法改正の国民投票で改憲を成立させ最大限2036年まで続投出来ることになった。その過程の2024年の大統領選挙では5選という流れを堂々実現しているのだ。中国もまた2018年の憲法改正により国家主席の任期制限が撤廃され、無期限で国家主席を務めることが可能との解釈も可能だ。これらほぼ終身体制の指導者の国々といえよう。
また日章丸神話でイランに対して親近感を覚えがちな日本だが、1980年のイスラム革命により、現イランは終身最高指導者にすべての権力が集中する宗教国家として、かのペルシャ歴史風土に回帰している事実も目を見開くべきであろう。さらに「石器時代に戻してやる」との暴君的トランプ大統領の対イラン強硬言動の根底には、イラン学生らによるテヘラン米大使館長期占拠事件(1979-81年)の屈辱と、当時の民主党カーター政権によるこれら人質大使館員救出への極秘軍事行動の失敗で、米国が嘲笑を浴びたことへの「いらだち」を忘れていないからだ。米共和党支持の市民層も同様の気持ちを共有している背景がある。トランプ大統領はそれを利用している。
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