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2023-02-27 00:00
共産党に近い日本弁護士連合会の「反撃能力反対意見書」
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
日本弁護士連合会は、12月21日会見を開き、岸田内閣が12月16日に閣議決定した「安保3文書」に盛り込まれた「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有に反対する12月16日付「意見書」を岸田首相と浜田防衛相に送付したことを明らかにした。意見書によれば、反対理由の骨子は以下のとおりである。
(1)憲法9条の解釈上、自衛権の発動は相手国からの武力攻撃を排除するための必要最小限度のものに限られるところ、長射程ミサイル兵器を含む反撃能力の行使は、相手国の領域における武力行使に該当するから憲法9条に違反する。
(2)反撃能力としての長射程ミサイル兵器などは、相手国の領域に直接的な脅威を与える攻撃的兵器であり、憲法9条が禁じる「戦力」に該当するから、憲法9条に違反する。
(3)相手国の領域を直接攻撃する敵基地等への攻撃は、当然に相手国の反撃を招き武力の応酬に直結し、再びこの国に戦争の惨禍をもたらすことになりかねない。
(4)日本の存立の維持は、武力に依拠せず憲法の恒久平和主義・国際協調主義に基づき最大限の外交努力を尽くし武力紛争を防止すべきである。
上記の日本弁護士連合会の「反対理由」について法理論から反論する。
(1)について意見書は、反撃能力保有は憲法9条の必要最小限度の自衛権の範囲を逸脱したものと主張するが、相当ではない。必要最小限度は時代の進歩とともに変わり得る相対的な概念であり、急速な軍事技術の発達や相手国の攻撃力に対応して必要最小限度の自衛権の範囲が決定されると解するのが合理的である。そうでなければ憲法9条自体も認める国民を守る自衛の目的が達成できないからである(最大判昭34・12・16砂川事件「憲法9条は自衛権を放棄していない」参照)。
したがって、現在の急速なミサイル技術の進歩により日本のミサイル防衛が機能しなくなれば、それに代わり、日本国民の命を守るための自衛権の行使として、相手国のミサイル発射基地などに反撃する長射程ミサイル兵器を含む反撃能力の保有が不可欠となるから、このような反撃能力の保有は必要最小限度の自衛権の範囲内であり憲法9条に違反しないと解するのが合理的である。この解釈は自衛権を認める上記最高裁判例にも適合する。日本弁護士連合会は、半世紀以上前のミサイル技術の進歩がなかった古い時代の憲法解釈を今もそのまま踏襲しているのであり、当時は現在ほど中国や北朝鮮などによるミサイル攻撃の脅威はなかったのである。
(2)について意見書は、反撃能力としての長射程ミサイル兵器などは攻撃的兵器であり憲法9条が禁じる「戦力」に該当するから憲法違反であると主張するが、相当ではない。そもそも、憲法9条は侵略戦争のみを放棄したものであり、自衛のための自衛戦争は放棄していない(水戸地判昭52・2・17百里訴訟参照)。そのうえで、一貫した政府見解によれば、「戦力」とは「自衛のための必要最小限度を超えるもの」である。
前記の通り、近年のミサイル技術の急速な進歩により、我が国のミサイル防衛では国民の生命財産を守ることができず、自衛のために相手国のミサイル発射基地等に対する反撃が不可欠となれば、反撃能力としての長射程ミサイル兵器などは自衛のための必要最小限度を超えない自衛力であり「戦力」には該当しないと解するのが合理的である。この解釈は、自衛権を認める最高裁判例理論に適合したものである(前掲砂川事件最高裁判例参照)。
(3)について意見書は、反撃能力が持つ先制攻撃の危険性を指摘したものであるとすれば、筆者も同意する。反撃能力の行使は、偵察衛星等による十分な情報収集と分析が不可欠であり、米軍との情報共有も必須である。したがって、反撃能力は実際上米軍との共同行使となり、より有効性が高まり、相互の自制も働くであろう。
(4)について意見書は、紛争を防止する外交努力の重要性を強調しているが、筆者も同感である。しかし、意見書が抑止力の必要性を認めず、もっぱら外交努力のみを主張する趣旨であれば、筆者は賛同しない。ナチスドイツ・ヒトラーに対する英仏の平和外交失敗など、世界の歴史を見れば、外交と抑止力は車の両輪であると筆者は認識するからである。特に、ロシアや中国など力による現状変更を躊躇しない権威主義国家に対しては、外交とともに抑止力は欠かせないのが国際社会の現実である。ロシアのウクライナ侵略がこれを証明している。
日本弁護士連合会の「反撃能力保有」に反対する意見書の特徴は以下のとおりである。
(1)意見書を読むと、2022年2月の核保有国ロシアによる非核保有国ウクライナに対する国際法違反の軍事侵略及びプーチン大統領による核恫喝への日本弁護士連合会としての安全保障上の危機感が乏しい。世論調査を見ると、多数の日本国民は相当な危機感を持ち「反撃能力保有」を含め、防衛力強化に賛成しているのである。
(2)意見書を読むと、中国・北朝鮮・ロシアの日本周辺国の核戦力を含む軍事力増強、とりわけ、ミサイル技術の急速な進歩による極超音速弾道ミサイル攻撃・多弾頭弾道ミサイル攻撃・変速軌道弾道ミサイル攻撃・ミサイル飽和攻撃等に対する、日本弁護士連合会としての安全保障上の危機感が乏しく、日本のミサイル防衛の危機的状況からも目を逸らしている。
(3)意見書を読むと、日本国民を相手国のミサイル攻撃等から守る抑止力の観点が欠落しており、反撃能力の保有による日本の抑止力補強の必要性を認めず、逆にこれを危険視している。これは、上記(1)(2)で指摘した日本弁護士連合会としての安全保障に対する危機感の欠如に由来するものである。
(4)意見書を読むと、核開発を進め弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、武力行使を否定せず力による現状変更を躊躇しない軍事大国の中国による「台湾有事」や「尖閣有事」などに対する安全保障上の危機感が乏しい。
このように、日本弁護士連合会の「反対意見書」を読むと、上記(1)~(4)で指摘した通り、ロシアのウクライナ侵略や、中国・北朝鮮・ロシアのミサイル技術の飛躍的進歩、北朝鮮の核開発・頻繁なミサイル発射、中国の力による現状変更などに対する、日本国民の危機感に比べ、日本弁護士連合会として、安全保障上の危機感が乏しいのである。
そうだとすれば、日本弁護士連合会の立場は、抑止力の必要性を認めず、平和外交一辺倒の日本共産党の立場に近いと評価せざるを得ない。日本共産党も、反撃能力について、「憲法違反」「立憲主義違反」「専守防衛違反」などと、前記日本弁護士連合会の意見書で述べられている反対理由の骨子に近い主張をしているのである(12月17日~24日付「しんぶん赤旗」参照)。
さらに、日本弁護士連合会は、今から7年前の2015年成立の「平和安全法制」に対しても、日本共産党と同様に、集団的自衛権行使容認は立憲主義違反であり、危険な憲法違反の法制であると主張して反対していたのである(2015年5月29日付「安保法制等に反対する日弁連宣言」等参照)。当時、日本共産党は「平和安全法制」を「戦争法」であると宣伝し、立憲民主党の前身である民主党も「徴兵制になる」と宣伝していたことが改めて想起されるのである。
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