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2008-12-15 07:59

リーダー不在で空転する政界再編・新党結成の動き

杉浦 正章  政治評論家
 総選挙を境にした政界再編の可能性は極めて大きいといわざるを得ないが、自民党内の現在の動きをみると、求心力のある再編または新党結成の動きは生じておらず、模様見の色彩が濃厚だ。離党を公言しながら、党幹部の圧力に身動きならなくなった渡辺喜美、再編を狙った議連を作り損ねた中川秀直など、まさに反主流の迷走ばかりが目立つ。要するに、離党も覚悟で回天の事業に取り組もうとする腹の据わった政治家が、核となっていないからだ。

 新党結成と言えば、走りとなったのが新自由クラブだが、この動きは腹が据わっていた。結成の半年前から河野洋平ら6人が極秘裏に動きをすすめ、1976年6月に「保守政治の刷新」を掲げて自民党を離党、新自由クラブを結成した。報道機関も察知できなかったところが多く、NHKも落としている。いまの動きを見ていると、反主流の“干され組”がマスコミの力を借りて騒いでいるだけだ。渡辺も「新党の作り方」をテレビで評論家のように講釈しているが、執行部や党内実力者の批判や圧力を受けて、当初突出した意気込みは消えている。「今国会末の解散」を唱えるようでは、すごみもない。不言実行の新自由クラブのケースとは雲泥の差がある。足元を見られて党内から「離党して、批判せよ」と言われるのももっともだ。

 中川の動きも、所属する町村派内部から再編狙いの動きを封じられて、「政局とは無関係」の宣言を余儀なくされた。中川の動きが党内の潮流にほど遠い最大の理由は、小泉構造改革路線の旗をいまだに掲げ続けていることにある。例えば金融危機の実体経済への波及で、派遣など非正規雇用労働者の首がまるで余剰生産物を破棄するように、いとも簡単に切られているが、これはまぎれもなく小泉改革の残した最大の欠陥にほかならない。労働者の基本的権利を空洞化させてしまったのである。この旗を掲げ続けているかぎり、政界再編の核となることなど、とてもおぼつかないだろう。中川の動きのもう一つの欠陥は、「選挙結果で判断する」という政治姿勢にある。「コウモリの寓話」のような、どっちつかずの印象を与え、自民、民主の両方から信用されないことになりかねないのだ。

 自民党・加藤紘一、山崎拓、民主党・前原誠司らの「ラーの会」も、再編をにらんでの動きだが、いずれも自民党のあぶれ組と民主党の非主流であり、うねりを起こすにはほど遠い。むしろ加藤は、小沢一郎との会談で、民主党政権の“閣僚人事”を小沢からほのめかされているとする説が強い。加藤に同調する人数はほとんどいまい。再編よりも猟官の動きととられているからだ。加藤も山崎も14日、自民党を現段階で割るつもりはないことを明らかにした。加藤の乱がいまだにたたって、党内的な信用に欠ける。加藤、菅直人、亀井静香との「YKKK」について、山崎は同日、「政界再編の軸が必要で、我々4人はその軸のひとつ」と述べているが、名だたる海千山千同志で舵を取っても、舟は山に登りかねない。

 総裁選挙で与謝野馨を擁立したグループも微妙な動きを見せている。対立していた与謝野と中川は最近和解している。しかし与謝野は暗く、党内多数の人心を集める力に欠ける。本質は政策マンであり、大乱の時の政治家ではあるまい。こうみてくると、自民党内はいまのところ政界再編組も新党志向組も及び腰であり、強いカリスマ性とリーダーシップをもつ中核が存在しない状況だ。党内各派が欠陥のある首相・麻生太郎を“だまし、だまし”使っていかざるを得ないと判断するのは、無理からぬところだ。しかし自民党はあらゆる面で耐用年数が限界に来たような様相を示しており、大局から見れば解党的な出直しは不可避とみられる。 
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