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2008-11-13 12:19

(連載)ユビキタス社会における利用者の福利(1)

森 浩晴  団体職員・大学講師
 1985年以降の電気通信分野の市場化により、私ども一般利用者は、低廉に通信サービスを享受できる様になったと考えます。特に1990年代後半以降、インターネットや携帯電話の普及がその流れに拍車をかけています。現在、勤務先や学校でも家庭でも、PCは一人一台の環境であり、携帯電話も概ね一人一機に近い存在であります。これは85年には想定できなかった状況でもあります。電気通信分野は他の生活インフラ(電力・ガス・上下水道・鉄道)同様、公共サービスの範疇に属するものです。いわば私どもが生活する上で無くてはならないライフラインであります。ここには3者が存在します。(1)利用者、(2)事業者、(3)政府の3者ですが、どのような生活インフラであれ、第一義に考えるべきは、利用者の福利です。

 同時に、受益者負担の原則も加味せねばいけません。また通常は寡占体制で実施される事業ですので、勿論ここには政府による、良い意味での管理・監督も必要とされます。古典派の経済原論ですと、費用逓減産業である電気通信事業は、初期費用が過大過ぎるがため、本来U字型になる平均費用曲線も限界費用曲線も逓減し続けます。この事業を事業開始当初から市場原理に委ねると、公益性が損なわれるということは、経済学の導入部分にて、グラフで挙証されています。

 そこで、政府によって消費者余剰を拡大する路線が取られ、公権力による事業出発となります。本邦でも諸外国でも同様の官業から始まり、徐々に民営化しているのがこの分野です。これによって、広い国土のどこに居住していようと、全国一律料金で通信事業サービスを享受することができて来ました。やがて経済が成熟し、黎明期の様な成長が見込めなくなると、電気通信事業を官直轄から民営化する方向に遷移します。ここでは、様々な議論・立場がありますが、その時代の経済・財政状況を踏まえて、大局的に考える必要があります。

 我が国の場合、電気通信事業は、逓信省→郵政省→日本電信電話公社→NTT各社、と承継されています。1985年にNTTが誕生した時代は、バブル経済の手前であり、内国経済や国家財政にも相応のゆとりがありました。90年代後期以降、今のユビキタス時代に暫時変貌するにつけ、民間経済は疲弊し、財政も逼迫して参りました。政府は自己の負担を避けるべく、官業の民営化や市場化を唱え始め、全ての公共サービスを民に委ねようとしています。国家財政・地方財政が逼迫している現下、「民で行うことができることは民で」という主張は確かに耳障りが良いものです。一般にお役所が行う事業よりも民間が行う業務の方がコストがブラッシュアップされ、新規雇用を生み、利用者にとっても豊富な便益がもたらされる「福音」の様な印象があります。果たしてそうなのでしょうか。(つづく)
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