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2008-10-27 07:39

首相は解散先送りを逡巡するな

杉浦 正章  政治評論家
 首相・麻生太郎の解散回避作戦がどうやら成功しそうである。自民党内、公明党、民主党の対応をそれぞれ分析してみても、解散なしで逃げ切れる方向が濃厚だ。一にかかって金融危機フル活用の戦略が図に当たった感じだ。ここで先送りの決断をすれば、おそらく1月解散もなく、4月以降、場合によっては任期満了型総選挙となる方向が濃厚だ。朝日新聞によれば、昨日26日投開票の予定だったが誤報に終わり、今度は読売が誤報臭濃厚となった。読売は10月15日付け朝刊で「麻生首相が今月末の衆院解散を視野に準備に入った」と「月末解散→11月18日公示→30日投開票」と踏み切ってしまった。「首相が決めた」というのだから、朝日より踏み込んで、引っ込みがつかない報道だ。幹事長・細田博之による国会対策を狙った解散断定発言に利用されたことになる。だから首相本人でなく、周辺情報で書くと、間違うのだ。

 細田に至っては、どうも最後の最後まで“うそをつく役目”らしく、この期に及んでも、11月末投開票を“愚直”に言い続けている。最後までラッパを離してはいけない役目らしい。所属する町村派の思惑を受けた発言などと言う見方があるが、浅薄だ。拙稿が指摘してきたとおり、ひたすら国会対策だ。麻生は政局に金融危機をフルに利用している。好都合なのは、金融危機を最優先することは、単に国家的のみならず、国際的な急務という、誰もが疑わない“大義”があることだ。先に「解散は、天の時、地の利を活かしてやるもの」と書いたが、今は逆だ。「天の時、地の利を活かしてやらない」のが正しい選択だ。確かに国際金融情勢は、日本に「のんびり」と解散・総選挙をさせておくほど悠長ではない。切迫している。自民党幹事長代理・石原伸晃は26日NHKで「株価が底抜けしたり、円が90円を割るような状態になれば、先送り」と述べたが、そこまで行かなくても、欧米を覆う金融恐慌の実態は、解散している場合ではない。報道機関の世論調査も「解散よりも、経済対策」の声が圧倒的だ。

 ワシントンの緊急サミットは、11月15日に開かれ、円独歩高の“一等国”日本の役割と経験に対する期待が大きい。おまけに麻生は議長だ。その議長が会議前に解散して、「明日をも知れぬ身です」と言ってサミットに出席することは、まずあり得ない。今回のサミットは、開催して、声明出して終わり、のサミットではない。フォローアップが不可避のサミットでもある。そのサミット直後に政権が変わっては、日本は何をやっているのかということになる。株価暴落を後押しして、世界経済に甚大な影響を及ぼすことになりかねない。大恐慌時も1933年(昭和8年)の「各国の恊力による世界繁栄の恢復」を目的としたロンドン世界通貨経済会議が、大失敗となり、世界に失望感が広がり、第2次世界大戦という最悪の事態に導いた。この二の舞を避けねばならないのだ。

 解散回避をめぐる国内政治情勢はどうかと言えば、総じて先送り反対派に元気がない。早期解散派も、細田は国会戦略的に「早期解散」を言っているのであり、町村信孝や中川秀直は自分の選挙情勢をにらんで「早くやれ」と言っているのであって、説得力はない。麻生の側近はすべて先送り論だ。公明党はどうかと言えば、このところ早期解散による“自公抱き合い心中”となりかねない状況から、先送りやむなしという方向のようだ。幹部が口をそろえて「麻生首相の決断に委ねる」といっているのが、その証拠だ。問題の民主党も「何が何でも解散」を言えない状況にある。それは「麻生が金融危機を“人質”にとった」(最高幹部筋)の発言が物語るように、金融危機を無視してまで解散総選挙を主張して、世論の反撃を食らいたくない、という思惑があるからだ。従って恐らく麻生は先送りを選択するものとみられる。いったん先送りをしたら、まず年内解散はない。1月も「金融危機対策、国内景気対策のための予算早期成立」という錦の御旗があるから、そのまま通常国会に入って、来年度予算案の早期成立を図ろうとするだろう。通常国会中に大スキャンダルや大失政が出て、追い込まれれば別だが、解散はできるだけ先送りされる方向にある。4月以降ではないか。
 
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