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2008-09-06 04:45

市民セクターの未来は闘い取るもの

入山映  サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
 NPOが4万5千、公益法人が2万5千。この他に社会福祉法人、学校法人が3万、医療法人が4万ある。宗教法人に至っては20万を超える。これらはいづれも、欧米などで通常、市民社会組織、あるいは民間非営利セクターなどと呼ばれるものである。ところが、わが国ではタテ割りの行政組織構造に絡めとられて、100を超える法律の規制下におかれ、バラバラの存在に留まり、統一したセクターとしてのイメージは存在しない。のみならず、特定非営利活動促進法によって法人格を取得している所謂NPOと、民法あるいは今回新しく実施される公益法人法によって法人格を取得する公益法人の2つでさえ、お互いに同じ社会機能を果たしている仲間だ、という意識はないし、まして機能分担とか、共同してよりよい社会を作り上げよう、という動きも皆無に等しい。

 もちろん市民社会組織というのは多元的な価値観を反映するものだから、なにも一斉に同じ行動をとったり、息を合わせたりする必然性はないから、それはそれで結構だ。しかし、官僚制の欠点に対してそれを補完する機能を果たそうとか、市場原理から落ちこぼれた弱者救済のメカニズムを考えようとするのに、個々の善き志とか、思い入れだけで対応しているのでは、如何せん非力だ、と言わざるを得ない。NPOの国内生産額は7千億円弱だという推計がある。何も経済規模の大きさを誇るのがNPOの比較優位ではないから、大きければ良いということにはならないが、社会変革の起爆剤というには、これはまた余りにも非力の感を免れない。その活動する分野の多様性を考えれば、一層その感を強くする。この経済規模で社会に何らかのインパクトを与えようとすれば、よほど研ぎすまされた問題意識と活動手法が必要とされることは明らかだ。

 ところが、安上がりの委託先としてNPOを活用しようという行政の意図や、告発型NPOに対する怯えや取り込みのベクトルなどもあって、実力以上にちやほやしておこう、あるいは適当につきあっておこう、という態度が随所に見られるようになってきた。特にODAの分野では、その傾向が強い。それはそれで悪いことばかりではないが、NPOの側にそれを安易に受け入れ、自らのプロ意識の錬磨よりは、仲間内で気炎を上げる方にエネルギーが浪費されるようになるのは、望ましい傾向ではない。経済規模20兆円の公益法人が外郭団体視され、いわれない蔑視を受けたりしているのと、好対照だといってよい。官僚制や市場経済に穴をあけようとすれば、制度改革に目が向けられなくてはならない。

 既存の制度の中でいかに多くのおこぼれを頂戴するか、ということではなく、NPOを、民間非営利組織を、機能させざるを得ない制度を創出する、ことこそが望まれる。そのためには、これまでのようにバラバラに「分割し、統治され」ていた、多くの市民セクター組織の共闘のようなものが必要になる。その意味で、今回の公益法人制度改革に対してNPOが関心を抱く動きが見えるのは心強い。8月30日にNPOサポートセンターが法政大学と共催した公開講座「見えてきた新公益法人制度とそのインパクト」はその第一歩とも言うべき試みであった。堀田力氏の特別講演は制度の問題点を摘出する優れたものであったし、パネルにおける山岸秀雄、富永さとる両氏のコメント、特に山岸氏の「制度さえ出来れば後は全てがうまくゆく、というものではない。表現は強いが、闘い取る、という意欲がなければ、市民セクターに未来はない」という発言には味わうべきものがあった。
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