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2008-09-02 07:54

福田辞任で攻守逆転の与野党構図

杉浦正章  政治評論家
 首相・福田康夫の辞任は与野党攻防の構図をがらりと変えた。与党には安堵感が漂いはじめ、民主党は真っ青になった構図だ。政局は後継問題が話題をさらい、民主党代表選挙は影に隠れる。後継は幹事長・麻生太郎を軸に展開、新内閣は発足当初は支持率を回復しよう。麻生は事実上政策実行ではなく、衆議院を解散をさせることを主任務とする「選挙管理内閣」を構成することになる。解散時期の判断は極めて難しいが、戦略的には支持率が低下しないうちの早期解散が有利となろう。

 マスコミは全然予期していなかった。わずかに当解説が「できるところまでやる」という福田が漏らした言葉を昨日紹介、退陣を“予感”しただけだ。福田は記者会見で先週末の決断を明らかにしたように、ぎりぎりの切羽詰まった心理状態だったのだ。福田は「政治空白を作らない時期を選んだ」と述べており、臨時国会で追い詰められてからの辞任を回避した。福田は首相としては歴代まれに見るほどの不適格性を示したが、最後の決断は、自民党にとって「起死回生の妙手」ということになる。福田は自らの辞任によって、自民党に死地からの脱出のチャンスをもたらしたのである。

 なぜなら、すべてがリセットされるからだ。今後自民党は総裁選挙の段階に突入、国民の関心は後継者に絞られる。従って臨時国会の12日招集は月末前後にまでずれ込むことになろう。総裁選挙は麻生とは政策的に対極にある上げ潮派などから立候補が予想されるものの、事実上麻生が極めて有利な中で進められるだろう。総裁選挙は派手になればなるほど自民党にプラスする。その上で国民の人気も高い麻生が首相となれば、内閣支持率は恐らく当初は50%を越え、場合によっては60%を上回る事も予想される。
自民党内では麻生応援団などから、福田の支持率低迷を理由に「福田おろし」の動きが生じていたが、新内閣で支持率を回復すれば、政治の大状況は自民党にとってプラスに作用することが予想される。従って辞任ショックから覚めれば、自民党には小さいながら「希望の灯」がともった事が分かるだろう。与党の公明党にとっても、麻生との関係は良好な上に、福田では総選挙に勝てないという判断が主流だっただけに、内心大歓迎しているに違いない。

 衆院議員の任期を1年後に控え「麻生内閣」の性格はまぎれもなく「選挙管理内閣」の色彩が濃厚である。 従って麻生が首相になれば、既に決めた中途半端な景気てこ入れ策に加えて、より大規模な景気対策を追加し、選挙対策を有利に進めるための施策を打ち出すに違いない。そこで焦点になるのが、解散総選挙の時期だが、一定の成果を上げた上で解散という選択もあるが、大戦略としては早期解散が得策と見るべきだろう。なぜなら物価高騰、高齢者福祉、国民年金と国民の不満はうっ積しており、発足当時の支持率は“ご祝儀的”であり、月を追うごとに低下することが明白であるからだ。もたもたしていては、解散の機を逃がすことになる。麻生が勝負師なら臨時国会冒頭解散に踏み切るだろうが、その度胸があるかどうかだ。

 こうして自民党は絶好の福田辞任で、「最後のチャンス」とも言うべき事態が到来しそうだが、地滑り的に失われた高齢者票、女性票、建設業者の組織票などの失地回復は容易ではない。「麻生ブーム」をつくって総選挙をしても、結果は予断を許さないだろう。ブームが上滑りする可能性もある。一方、福田を追い詰めることによって有利な政治状況を作ってきた民主党にとっては、手痛い打撃となった。朝日新聞が「勢いづく野党」と見出しにとっているが、内実は逆だ。当面政局の焦点は自民党総裁選であり、対立候補のいない民主党代表選挙はかすんでしまうだろう。福田を追い込むという絶好の政治目標を失ってしまった形だ。民主党にとっては「福田の手による解散・総選挙」が最良の選択だったが、突然の辞任による状況変化で「選挙圧勝・民主党政権実現」の夢が実現するかどうかも定かでなくなった。民主党も戦略をリセットせざるを得ない状況となったのである。
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