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2008-08-31 17:04

(連載)地球規模課題で日本は欧米との協力を重層化せよ(2)

古川勝久  (独) 科学技術振興機構社会技術研究開発センター・フェロー・
 もとより、アジア地域における様々な問題には、地球規模の側面が指摘されうる。例えば、アジア地域におけるエネルギー安全保障、原子力発電増設、感染症対策、気候変動、兵器拡散などの重要課題は、全て地球規模で取り組まなければ解決できない課題でもある。また、これらの問題に対処するために、アジア地域で最大の当事者である中国やインドを「責任あるステイクホルダー」に導いてゆく上で、ASEANやAPECなどの地域協力の枠組みだけでなく、グローバルな枠組みの中でも働きかけてゆく必要がある。

 現在、先進諸国の視点からすれば、国際機関や国際交渉に対する中国やインドの姿勢は建設的なものとは程遠い、との見方が大半であろう(例えば、気候変動問題や世界貿易機構(WHO)における国際交渉、または核技術供給国グループなど)。もともと中国やインドに対する関与政策として、これらの国々を様々な国際機関に加盟させた結果、少なくとも一部の国際機関については、むしろ逆に、制度自体が機能不全に陥り始めている実情すら見受けられる。ある意味、逆に「乗っ取られてしまった」感すら否めない。国際機関や国際交渉において、「グローバル・スタンダード」を巡り、先進諸国とこれら新興諸国との間で、「激しい政争」が始まっている。

 また、このような「グローバル・スタンダード」を巡る政争は、国連安保理にも波及しているようだ。今年5月、ミャンマーの軍事政権が僧侶などを弾圧した際、国連安保理がミャンマー非難決議を出そうとした際、中国はミャンマーに関して初めて拒否権を行使した。日本外務省の中では、この中国の動きを、「G77の支援を束ねて、中国が『内政不干渉』という自国のスタンダードをグローバル・スタンダードにしようとする動きではないか」とする見方がある。

 加えて、近年のロシアの動きも極めて強い危険を感じさせる。プーチン政権を批判するジャーナリストや亡命者を暗殺したり、その暗殺容疑者を国会議員に仕立てて、海外政府による逮捕免責を図るなど、とても受け入れ難い動きである。ロシアはいわば「マフィア国家」化したかのようであり、犯罪組織の行動規範をスタンダードに位置づけているかのようでさえある。同様に、8月のロシア軍によるグルジア侵略においても、その軍事介入基準は少なくとも西側のそれとは大きく異なるものである。

 これら様々な政策課題に関する「グローバル・スタンダード」を考える上で、やはり価値観の重要性というものを考慮せずにはいられない。なぜならば、「スタンダード」はその国や社会の動きを制御するものであり、それゆえにその国や社会が抱く考え方や価値観を反映したものにならざるをえない側面が強いからである。その意味で、日本外交において価値観の重要性が指摘される傾向が強まってきたのも、ある意味で合理的な帰結といいうるのではないだろうか。(つづく)
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