国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-08-18 07:58

麻生政治で自民党は「外交・安保」票も失う

杉浦正章  政治評論家
 自民党立党以来の「外交・安保」政策がぐらついている。幹事長・麻生太郎の臨時国会における重要課題の選択は、消極的な公明党に配慮して、「給油」継続のためのテロ特措法案にないように見える。「外交・安保」政策は、最後に残った自民党支持票のコア部分に当たるが、その支持票までも失いかねない流れだ。草葉の陰で祖父吉田茂が泣いているに違いない。テロ特措法案は、公明党が総選挙に不利と異論を唱え、麻生が幹事長就任早々これに乗った形である。公明党は3分の2条項使用による再可決にもともと消極的であったが、解散・総選挙が接近してますますその傾向を強めている。代表・太田昭宏にいたっては、野党国民新党代表の綿貫民輔との会談で「米国の大統領も交代する」ことを理由に、同法延長に否定的な考えで一致したほどだ。しかし、これは無知も甚だしい。大統領候補はマケインもオバマもアフガニスタンへの軍事力増強論であり、駐日大使・シーファーも繰り返し「給油」の継続を切望している。

 日本だけがテロとの戦いから離脱すれば、日米関係は戦後まれに見るほど悪化することは目に見えている。恐らく麻生は、総選挙でいまや欠くことのできなくなった自民党候補への公明党票を意識しているに違いない。さすがに首相・福田康夫は「給油」が重要との認識はある。13日の麻生との会談でも、その必要を強調しているが、両者は臨時国会の最優先順位を、事実上の選挙対策となる補正予算案の早期成立とする方向で一致している。福田が「3分の2」の再可決を使ってまでテロ特措法を通せとは言っていないことが、これを物語っている。選対委員長・古賀誠も17日「始めに再可決ありきでやらない。それよりも大事な補正予算、景気対策に絞り込む」と強調している。ここから出てくる構図は、テロ特措法案を未処理のままか、せいぜい衆院通過にとどめておいたまま、解散・総選挙に突入するという構図である。しかし総選挙で与党が3分の2を獲得することは不可能であり、テロ特措法は永遠に葬り去られることになるのが流れだろう。

 当分政府・自民党はテロ特措法に関して、首相が「やるべきだ」との“役割”を演じ、麻生は公明党傾斜で、役割を事実上分担するのだろうが、麻生の「腰の引け」方は明白であり、もう同法案の命運は定まったというところだろう。しかし、麻生は重要なポイントに気づいていない。それは「外交・安保」政策ゆえに自民党を支持する層があることだ。言うまでもなく、麻生の祖父吉田茂がサンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約を締結して以来、安保騒動などを経て、自民党支持層の核となる部分が「外交・安保」政策支持票として定着してきている。ここで「給油」を断念することは、その最後に残った支持票の砦を放棄することになりかねない。恐らく支持層の失望感は大きく、支持票は浮動票のごとく漂流することになろう。

 昨年10月の時点における「給油」の賛否を問う世論調査でも、読売新聞が賛成49%、反対37%、時事通信が賛成44%、反対28%、毎日新聞も共同通信も賛成が反対を上回っている。各社の社説も「給油」継続やむなしであり、朝日新聞ですら「給油活動を違憲とする小澤民主党代表の考えは納得しがたい」と民主党を切り捨てている。自民党は後期高齢者医療制度という結党以来まれに見る失政で、高齢者という重要な支持層を失い、消えた年金で全国民の信頼を失い、物価高騰で主婦層の支持を失い、公共事業の削減で組織票を失ってきている。浮き足だった自民党執行部は、「外交・安保」政策での責任意識などさらさらない公明党ペースに踊らされて、今度は立党以来の支持層の核である「外交・安保」票を失おうとしていることに気づかない。まさに末期症状であろうか。 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム