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2008-08-10 14:04

「ロシア・グルジア紛争」は、「戦争」ではない

伊藤憲一  日本国際フォーラム理事長
 北京で「平和の祭典」であるオリンピックが開幕したその8月8日に、グルジアとロシアの間では武力衝突が発生し、8月10日現在戦火は拡大している。各紙はおしなべて「グルジア紛争」「南オセチア紛争」などと、「紛争」という言葉を使っているが、一部には「戦争」という言葉を使っている新聞もある。明らかに混乱が見られるようだ。そこで「戦争」と「紛争」の違いを改めて指摘しておきたい。

 それは「不戦時代(あるいは紛争時代)の到来」(拙著『新・戦争論』参照)を説く者として、今回の事態をどう見ているのかについて、一言することにもなる。不戦条約、国連憲章の制定以来、「戦争」は違法化されている。だからもはや宣戦布告をして、「戦争」状態に入る国はない。入れば、その国は自国が「犯罪国家」であることを認めることになり、国際社会全体から「制裁」を受ける立場に立つことになるからだ。

 南オセチアがグルジアの一部である以上、グルジア軍が南オセチアに入り、秩序を回復しようとしたことを、国際社会は咎めることはできない。まして、ロシアがそれを理由にグルジア各地を空爆してよいはずはない。「ロシアがしていることはあからさまな侵略だ。止めなければロシアの戦車が欧州のどこへも侵攻できることになる」というグルジアのサーカシビリ大統領の主張は、正鵠を射ている。

 「戦争」という言葉には、両当事国は対等、平等であり、「どっちも、どっちだ」という「無差別戦争観」の価値判断が伴っている。それに対して、「紛争」という言葉には「犯罪」と「制裁」の観念が付随している。国際社会は、今回の事態を絶対に「戦争」と呼ぶべきではない。「紛争」と呼ぶべきなのである。そして「紛争」においては、加害者と被害者が認定されなければならず、加害者に対して国際社会は「制裁」を加え、正義を回復しなければならないのである。

 日本のメディアは、「どっちも、どっちだ」という野次馬的な報道姿勢に流れがちなだけに、事態の本質を見据えることの重要性を強調したい。そして、世界全体が「不戦時代」に入りつつあるいま、ロシアのような大国がいまだに前世紀的な戦争観をもち、あたかも「ならず者国家」であるかのように振舞うならば、それは人類全体の最大の不幸であることを指摘したい。
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