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2008-08-08 22:55

再説「大学教育への文部科学省の介入を排除せよ」

鈴木智弘  信州大学経営大学院教授
 本年2月7日付けの本欄に「個性をつみ取る日本の大学教育:大学教育への文部科学省の介入を排除せよ」と題する寄稿(523号)をした。文部科学省が「教育の質の保証」「学士力」と称して、大学に初等中等教育と同じような「指導要領」を押しつけようとしていることへの危惧を表明したものである。ところが、その後福田改造内閣が発足し、大学教育を巡る環境は更に悪化している。その近況を報告し、再度「文部科学省の介入」の排除の必要性について、警鐘を鳴らしたい。国立大学の法人化後、運営費交付金は毎年1%ずつ削減されているが、来年度概算要求基準においては、運営費交付金と私学助成費の削減幅を3%とし、削減分の一部を競争的資金として各大学に対する査定を元に分配することを想定しているらしい。

 このような大学への締め付けの背景には、財政難もあるが、大学進学率が50%に迫り、大学卒業生の学力が低下したこと、産業界の国際競争力低下の一因を大学の研究力低下(大学教員が象牙の塔に立てこもり、産業界の役に立つ研究をしていない)のせいにする考え方があるらしい。前者については、FDと称して、勉強をする習性のない「学生様」にも理解して頂けるような授業をするために、大学教員に研修を義務づける動きが顕著になっている。しかし、大学生の学力低下は、文部科学省が規制緩和の名のもとに、大学を粗製濫造させたことに原因があり、その責任を大学に押しつけるのは本末転倒である。また、文革時代の紅衛兵のように「FD、FD」と騒ぐ者が大学内を闊歩している。後者については、大学予算を締め付けると同時に、文部科学省だけでなく各省庁が、科学技術研究費、COEなどを設け、産業界に役に立つ研究を推奨している。

 資金不足になった大学は、教員が膨大な申請書を作成し、霞ヶ関に呼び出されて、面接を受けている。そして苦労して資金を得ても、実際の資金交付は遅れ、立替払いを余儀なくされている。使途は細かく制限され、管理業務が膨大となっている。頻繁に報告会や報告書も求められ、研究者の世界では「COE貧乏」という言葉があるほど、本来の研究以外の業務に振り回されている。「国民の血税だから」といって、役人は自己保身のためのアリバイ作りの書類や報告を求める。大学事務局はこれに対応できず、教員が書類作りに忙殺される。研究旅費は基本的に立替清算払のため、海外調査などをすれば何十万円もの立替払いを強いられ、少しでも不備があれば、不正として糾弾され、場合によっては職を失う。

 外部資金を獲得しなければ、通常の研究・教育に支障が出るため、大学の管理職や研究室を主催する教授は、仕方なく外部資金を求めて、霞ヶ関詣でをする。そのため、本来の教育・研究が阻害される。外部資金獲得のために霞ヶ関との関係を強めるためか、官庁出身の教授が増える。特殊法人改革の受け皿が大学なのであろうか。現在の大学改革は、明らかに方向を間違えている。産学官連携による新製品作りといっても、商売をしたことのない役人や役所の覚えめでたい大学教員が仕切るのでは、無理である。商売に必死な産業人は、常に新技術や販路などを探している。大学のすべきことは、従来通り地道に研究を続け、その成果を学会だけでなく、ネットなどを使って定期的に発表することである。真剣な産業人は、その発信を自ら探し当てる。大学は研究機関であり、学ぶ意欲と学力をもった者が学び、研究する場である。
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