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2008-08-01 13:26

“鹿を逐う”中国のシーパワー

秋元一峰  海洋問題研究者
 2007年4月から、中国の海洋進出を危惧する投稿を続け、警鐘を鳴らしている。“鹿を逐う”は、中国の故事「中原に鹿を逐う」を踏まえ、「覇権を追求する」の意味である。中国のシーパワーの狙いを表現したつもりである。去る7月11日、中国の砕氷船「雪龍」が北極海科学調査のために上海を出港した。「雪龍」による北極海の調査は、今回で3回目である。これまでの調査では、北極圏の海洋環境、大気、地質及び漁業に関する資料を収集しており、今回は北極の海氷面の変化が地球環境と中国の気象に及ぼす影響などが調査される。

 冷戦後、東・南シナ海および本邦周辺海域での中国の海洋調査が活発化し、有事におけるアメリカ海軍空母部隊との戦闘を想定した中国潜水艦の行動のためのデータ収集や、中国大陸棚に関する主張を補強するための地質学的調査が実施されていると伝えられた。今や、中国の海洋科学調査は、既に世界の海に及んでいる。冒頭で紹介した北極海調査に先立つ本年5月22日、中国の海洋調査船「大洋一号」は、250日間に及ぶ太平洋・インド洋の科学調査のため、広州を出港している。中国が太平洋・インド洋における海洋科学調査を開始したのは1995年であり、今回が20回目に当たる。前回の第19回調査では、インド洋中央海嶺の水深2800メートルで、新たな熱水噴出床を発見するなどの成果を上げている。今回の調査では、インド洋における生物多様性の調査が含まれているとされる。

 なお、中国は2005年4月から2006年1月に掛けて、10ヶ月に及ぶ世界一周海洋調査を実施しており、海底の熱水の噴出孔から銅、亜鉛、金、銀等の貴金属を含む硫化物を収集している。私はこれまで、当「百花斉放」欄で、「とうとう大西洋にまで乗り出した中国海軍艦艇」(2007年10月9日掲載第429号)、「着々と進む中国海軍の『外洋海軍』化」(2007年12月5日掲載第473号)など、中国海軍の拡張を危惧する拙文を投稿し続けてきた。詳しくは当該投稿をご覧頂きたいが、中国海軍は2005年以降、着実に行動範囲を拡大してきている。2005年は、ミサイル駆逐艦と補給艦がインド洋を巡航し、パキスタン、インドおよびタイに親善入港すると共に、共同訓練を実施した。

 2006年は、ミサイル駆逐艦と補給艦が北米方面を巡航し、アメリカとカナダを訪問した。2007年には大西洋に進出して、欧州諸国を訪問すると共に、オーストラリアとニュージーランドにも艦艇を派遣している。つまり、『近海防衛』を謳って、“ブラウン・ウオーター・ネイビー”を装ってきた中国海軍は、2005年以降、インド洋、太平洋、オセアニアそして大西洋と、その行動範囲を拡大し、“ブルー・ウオーター・ネイビー”に変身してしまったのである。今回触れた海洋科学調査と併せてみると、まさに“七つの海”に乗り出す戦略的展開であることが分かるだろう。中国は、着実にシーパワーを握りつつある。海洋国家にして海洋立国を謳う日本は、昨年制定された海洋基本法を更に発展させ、大きな海洋戦略を策定しなければ、中国のシーパワーに依存して生きていかざるを得ないことになるだろう。
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