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2008-07-25 10:55

大きな局面を迎える米中関係の行方

田久保忠衛  杏林大学客員教授
 米ピーターソン国際経済研究所のC・フレッド・バーグステン研究所長が「フォーリン・アフェアーズ」誌7-8月号に書いた「等位のパートナーシップ」を読んで、米中関係もついにここまで来たかとの思いをした。同所長の結論を一言でまとめれば、中国の経済的な挑戦に対応するには「主要国先進会議」(G8)ではなく、常設的な「米中会談」(G2)を開けとの提案だ。ニクソン大統領以来、いまのブッシュ大統領に至るまで6人の米指導者は中国に対し、概してエンゲイジメント(関与)政策を取ってきた。もちろんエンゲイジメント政策といってもブッシュ政権の第1期やブッシュ現大統領の第1期目にはコンテインメント(封じ込め)政策かとも受け取れる対応をしたが、中国を国際社会のあらゆる部門に招じ入れ、経済関係を国際ルールに沿って進めさせようとの考え方は、いずれの大統領にも一貫していた。

 バーグステン所長は、中国が(1)依然として貧しい、(2)市場化されないところがきわめて多い、(3)権威主義的である、の3点を挙げて、国際社会にすぐなじめないとの理解を示している。そのうえで、(1)ドーハ・ラウンド交渉に積極的に応じようとしない、(2)2国間ならびに地域的な貿易取り決めに政治を持ち込もうとする、(3)都合のいい時には「発展途中国」を持ち出して自分の立場を有利にする、(4)変動相場制に応じようとしない、(5)すでに最大の対外援助国になっているにもかかわらず、国際的な援助の基準に従おうとしない、などいくつもの異常な行動を紹介している。だからこそG2が必要との結論が出てくる。

 興味を引かれたのは、同所長がこの提案を2004年にロバート・ゼーリック国務副長官に示したところ、ゼーリック副長官は05年2月に中国との間でG2構想を取り上げたという。同副長官が05年秋に中国に対して「責任あるステーク・ホールダー(利害共有者)になってほしい」と呼び掛けたのはよく知られている。典型的なエンゲイジメント政策がすでに始まっていたのである。06年に下院の国際関係委員会に出席したゼーリック氏は、台湾に対して「独立は戦争を意味する。戦争は米兵の犠牲を意味する」と述べた。「中国を刺激する独立論はやめてほしい」と考えたのだろう。この流れはヘンリー・ポールソン財務長官に引き継がれ、米中戦略経済対話が始まった。

 最近中国の学者、研究者に会うと「米中関係は日本が考えているほどではありません。もっとよく観察してください」と忠告されることが多い。たしかに、バーグステン、ゼーリック、ポールソンといった人々のエンゲージメント・ポリシーは、いまのところ経済に限られている、と私は思う。しかし、軍事面での中国の不透明性は全く別の話だし、人権に至っては少数民族に対して中国がいかなる対応をしてきたか、は言うまでもない。人権など眼中にないスーダンやジンバブエの指導者を公然と支持もしている。政治体制をそのままにして西側との関係を深めれば深めるほど、中国は内部の矛盾をさらけ出す。当初中国はエンゲイジメント政策を「和平演変」だと警戒していたが、警戒心を解き始めたのか、そうせざるを得なくなったのか。大きな局面であろう。
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