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2008-07-18 08:08

政府は韓国の「国際歴史教科書対話」を受け入れよ

杉浦正章  政治評論家
 憤りを表明するなかに解決の道筋を織り込む。韓国大統領・李明博(イ・ミョンバク)の対応はさすがである。大統領は、日本政府が中学校の学習指導要領解説書への竹島(韓国名・独島)の記述を決めたことを受け、日中韓3国による共同歴史教科書の作成を検討するよう指示している。ドイツに先例のある「国際歴史教科書対話」の提案である。これに対して日本政府の反応はどうだ。脳死状態としか考えられないような無反応ぶりである。首相・福田康夫はいち早く夏休み入り。駐日大使・権哲賢(クォン・チョルヒョン)から「大使が帰ってもすぐ戻ってくる。だからわれわれは休みでも取ろうという気分なら、さらに大きな災いを招く」と警告を受けていることなど、側近は100%知らせていまい。

 大統領の指示を受けて韓国政府は、日韓の学者が参加する歴史共同研究委員会の教科書小委員会で竹島(韓国名・独島)の問題を扱うよう、日本側に働きかける方針だという。大統領提案は、ドイツが歴史教科書問題でフランスやポーランドと話し合いを進め、一定の成果を得ていることを踏まえてのものである。歴史的経緯を見れば、1618年には徳川幕府によって竹島(鬱陵島)渡海免許が大谷・村川両家に下されている。それ以前に朝鮮人がこの島を利用していたことを示す資料は存在しない。要するに1952年、当時の韓国大統領・李承晩が「自国の支配下にある」と一方的に宣言して以来、領土問題化したのであり、韓国側の提案する教科書小委員会での問題処理は、日本側にとって竹島問題を歴史科学的な公平性を持って協議する絶好の機会ではないか。

 第2次大戦後ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、自国に都合のいいように書かれがちな歴史教科書の抱える問題を指摘し、互いに相手国の歴史教科書についての議論とチェックをしていくべきだと提案している。これを受けてドイツは、フランス、ポーランドと「国際歴史教科書対話」を開始、それぞれ一定の結論を得ている。ポーランドとの対話は、両国の歴史家からなる、政府から独立した「ドイツ・ポーランド共同教科書委員会」で72年に始まり、4年の歳月をかけた忍耐強い話し合いの結果、結論を勧告として発表し、同勧告は教育現場で受け入れらている。教科書はナチスの過酷な占領政策を正確に描き、ポーランドの抵抗運動の意義を評価しているという。

 李明博は賢明にも「一時的に興奮して、強硬的な対応ばかりするのは、得策ではない。より長期的な目で、緻密(ちみつ)に戦略的に対応すべきだ」と述べており、歴代韓国大統領の中でもっとも竹島問題に冷静に対応している。日本政府はこの大統領提案を絶好のチャンスとして受け入れ、時間をかけた客観性のある討議を開始すべきである。ただ大統領の提案は「日中韓3国による協議」だが、日本側から見れば対韓、対中それぞれに複雑な問題を抱えており、3国協議は問題をこじらす可能性が高い。とりあえずはドイツが行ったように二国間で協議する方が結論が出やすいのではないか。9月に日韓中首脳会談が東京で予定通り開かれるかどうかも微妙になってきたが、こうした場で率直に話し合えばよいではないか。
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