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2008-07-09 09:54

(連載)求められる政策形成の構造変化(2)

中島貴彦  無職
 これに合わせて国民、政策立案者、そしてマス・メディアの変化が必要です。まず国民は、近年労働組合の組織率が20%を切ることに代表されるように、個人の自立が図られ、価値観が多様化しています。これは、それ自体好ましい面も有しますが、逆に生活の切実な願いの集約が困難となる負の面もあります。そのため、政治的解決を図るものもありましょうが、政治が適切な判断力を持っているという保証はありません。悲劇は、弱者の声が政策形成において無視されることです。どんなに価値が多様化しようとも、アイデンティティーの引照集団は存在するものであり、少なくとも願いを集約させる仕組み・組織が必要になります。

 実際、私は幼きころから生活保護受給世帯で様々な困難がありましたが、同じ状況にある者がどのように問題を克服しているのかに関する情報がなく、恥ずかしさや税金を投入されていることへの引け目を考えれば、より良き状況を求めて何かの事態の変更を仲間とともに役所の担当者に求めることなど、できませんでした。十代の年齢層も含めて、願いを集約させることができない現状では、共通の成功イメージをもてるはずがありません。成功イメージがないのに、どうして政策担当者は政策を立案できるのでしょうか。政策の一貫性も保障されません。

 次に政策立案者ですが、責任者自らが直接説明して、国民に選択肢を提示しなければなりません。情報を駆使して、予測を具体的に示し、成功イメージを描かせる必要があります。但し、これは自民党で盛り上がっているシンクタンク設立の動きがどのような結果を出すのかに依存しますので、簡潔な指摘のみにしておきます。

 最後に、マス・メディアは「過程」をも重視しなければなりません。「結果」を伝えてその原因を分析するという、事後報道がこれまでのマス・メディアの報道の仕方でした。こうした事後における問題分析はもちろん必要ですが、事前の主張、とくに警鐘をならして国民に政策を判断する視点を提供することも、重要なマス・メディアの役割なのではないでしょうか。マス・メディアには情報が集まっています。情報を活用すれば、ある「結果」が生じる前に、その「結果」を予想できるはずです。マス・メディアは、その場限りの「原因」を指摘するのではなく、指摘した「原因」に対する関係者の対応を刻々と伝えなければなりません。政策を評価する資料を提供するためです。さらにこの一連の流れを事前に実施することで、国民により役立つ報道となるはずです。そこで問題意識を発表して、それに対する対応・事実を追っていくという「過程」を伝えることで、いずれ生じるはずであった「結果」を未然に防ぐという新しい役割が求められるのです。国民に直接接するマス・メディアが、世論形成のために果たす役割は、大きいと言わなければなりません。国民に事前に参加・監視する機会が与えられても、判断材料や成功イメージがなければ、主体的な選択をすることは困難です。(おわり)
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