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2008-07-08 09:46

(連載)日本も独自の有人宇宙計画を(2)

青木節子  慶應義塾大学教授
 20世紀末までは、日本と中国の宇宙能力はほぼ互角、先端技術の獲得、運用という面ではむしろ日本の方が上であるとさえ考えられていたが、2003年の中国の有人飛行成功以来、そのような見方は一変した。2007年1月、中国はやはり米ロに次いで世界で3番目に衛星破壊実験を敢行し、成功させた。マイナス方向とはいえ、国際社会に中国の隔絶した力、というより野心、意思を見せつけた、ということができそうである。2008年現在、国際社会において日本の宇宙能力は、中国の後塵を拝するものであるというイメージが、ほぼ完全に定着したといってよいであろう。

 現在、日本は、国際協力の枠組で宇宙飛行士を輩出しており、将来の月探査開発においても、米国をはじめとする欧米との協力により、有人の月基地運営の一端を担う、という形にとどまりそうである。日本の財政状況を反映して年々漸減する宇宙予算を考えるならば、有人宇宙など、贅沢以外のなにものでもない、無駄である、と評価される可能性が高いことも、もちろん理解できる。しかし、それは、単に宇宙を数ある科学技術プログラムの1つと捉えることから来る短慮であると考える。米国は、約40年前に最初の月有人着陸を果たしていることもあり、今回は、中国のような熱意を月に注いでいない。「第二次月ラッシュ」においては、中国が先に有人着陸を果たす可能性は決して低くはない。成功すれば、世界で2番目、アジア初の有人月着陸という栄誉は、中国の国力の象徴として、特にアジア諸国の政策決定者に強く印象づけられ、今後の日本のアジア外交を決定的に不利にするであろう。

 アジア諸国は、いまだナショナリズムの時代を生きている。国威発揚という目的の宇宙開発の効果が、欧米諸国とは比較にならない大きさできくのである。日本は、ポストモダンの成熟国家として、月の有人開発に日本の名誉をかけることなど時代遅れだと思うが、周辺諸国はそうは思わない。そのずれを危惧するのである。そして、より本質的には、独自の有人計画が宇宙技術力を格段に向上させるという事実を看過してはならないと考える。日本が今、決断して取り組めば、ロケットの精度、往還機の再突入技術、などが格段に進歩する。そして、それはそのまま軍事力の代用物となる。武力行使において、他国がもたない制限を自らに課す国であるからこそ、それにもかかわらず自国を守る卓越した技術をもつという姿勢を周辺諸国に示さなければならない。

 戦争が不可能になった時代、武力行使が不可能な国であるからこそ、軍事力の代用として、よりいっそう先端科学技術の粋をシステムで動かす訓練を積まなければならないのである。月は、人類が宇宙に出ていくとき、人類の進化の過程でその日は必ずやってくるが、そのとき最初の天然の中継地となる。米国、中国のほかに、ロシア、インドが有人計画を非公式ながら宣言しており、今後、いずれかの時点で欧州も独自の関与をするであろう。いずれは、すべての宇宙先進国が、月に人を送るのである。日本も決断すべきである。行程表が、中国に比べてささやかなものであってもよい。決断の先延ばしこそ、憂慮すべきである。(おわり)
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