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2008-05-19 08:32

福田首相は大災害支援の多国間協定に動け

杉浦正章  政治評論家
 5.12四川大地震の粉じんもさめやらぬ状態だが、福田康夫首相は主にアジア諸国との間で大災害の際に緊急援助隊の即刻派遣などを可能とする相互支援のための多国間協定締結でリーダーシップを取るべきである。サミットでも中国、ミャンマーの大災害を主要議題として取り上げ、災害時緊急対策をテーマとすべきだ。今回の地震では日本の国際緊急援助隊がいちはやく現地に入ったが、生命維持の期限とされる72時間を大幅に超えての救助活動着手を余儀なくされ、日本隊の特色である高度の専門性を生かした早期救出が困難な状況にあることは残念である。地震発生と同時に緊急援助隊が派遣されていたら、助かる命も多かったはずである。

 「災害大国」の日本は地震や台風、津波被害などで世界でもトップクラスの救出技術水準を保有しており、とりわけアジアにおいてはぬきんでた先進国である。しかし中国の場合は4日遅れ、13万人を超える死者、行方不明者を出したと推定されるミャンマーの場合はいまだに救助要請がない状況である。これは国家間に他国の緊急援助隊を受け入れることへの警戒心があり、無用の自尊心もハードルになっているのであろう。しかし、ことは人命に関する問題である。人道上の見地から国際政治や外交を超越し、かつ超法規の次元で対応されるべきであろう。普段から国家間で大災害が発生した場合に直ちに駆けつけるための話し合いや、協定を締結しておけばよいのである。その話し合いが相互信頼を生み、国民レベルでの感情的対立を抑える効果をもたらすことは言うまでもない。

 今回の緊急援助隊への中国メディアの反応や民衆のインターネットへの書き込みなどをみると、援助隊は期せずして大変な善隣友好の成果を日中間にもたらしたことになる。首相はこの機を逃してはならない。自ら積極的にイニシアチブを取り、アジアに大災害に関して有事即応のシステムを作り上げるべきだ。最初は中国や韓国などとの2国間協定でもよいし、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の、あるいはさらに米国やオーストラリアなどもまじえた条約機構としてもよい。協定の基本は、緊急対策と、中期対策、長期対策に分ける。緊急対策は、(1)大災害発生後直ちに救命部隊と医師・看護婦隊で構成する緊急援助隊を派遣する、(2)派遣は相手国への通知のみで実施できることとする、(3)災害の規模によってはヘリ空母、航空機なども適宜投入できることとする、(4)衛星写真など自国で得た災害地の情報は直ちに当該国に連絡する、などあらゆる手段を通じて人命救助に専念する体制を整える。

 中期的には、(1)医療支援の拡大、継続、(2)テント・プレハブ住宅提供、(3)インフラ再建のノウハウ提供などが考えられる。長期対策としては、日本が中心となって、定期的に地震、台風、津波などに関する研修会議を開催し、協定加盟国の緊急時対応能力を高める。日本は災害大国としてこれまでに培ったノウハウを惜しみなく他国に伝達する。特に自治体、企業が参加する災害訓練などのノウハウを提供し、各国住民の災害意識を高める。また耐震住宅技術の伝達も必要となろう。こうした対応を組織的、定期的に続けることによって、協定加盟国に共通の信頼関係が生じ、大災害発生時に即応できる信頼関係が発展することは言うまでもない。この協定締結への動きは、日本が当面主導するしかない。首相は今こそ、その目を災害多発地帯のアジアに向け、早急に関係国に災害即時対応構想を提示すべきである。その絶好の機会がサミットであることは言うまでもない。サミットでは参加8カ国のみならず、中国主席を初めアジア諸国などからも首脳出席が予定されており、環境問題に加えて大災害対策も重要議題として取り上げ、協定締結に向けて大筋での合意にこぎ着けるべきであろう。
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