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2008-05-16 14:06

(連載)戦後平和主義について(2)

茂田宏  元在イスラエル大使
 戦争の問題を日本の決意のあり方に還元する考え方は、平和を念じれば、あるいは平和を強く願えば平和になるという、魔術的思考と同じようなものである。あるいは敗北主義である。このような思考は安全保障についての思考停止につながる。戦争をしないとの決意さえすればいいのであれば、防衛力の整備、抑止力、同盟、国際的な平和維持への貢献とか、日本の安全保障を考える必要がなくなる。しかしそんなことではないと大抵の人は判っている。にもかかわらず、こういう発言がなされ、受け入れられるのはどうしてなのか。

 反戦とか、憲法9条の考え方を大切にしているということがある。しかしより根本的には日本人の歴史的経験に関係があると考えられる。日本は島国であり、13世紀に蒙古の侵略を受けた以外、侵略された経験がなく、近代においては、日本が戦争を仕掛けた例があるだけである。それで日本人は仕掛けない限り、戦争にはならないと考えている。こういう考え方は現在の軍事技術や国際情勢を考えると、根拠のない考えである。ロシア人やイスラエル人、更に中国人はそういう考え方はしない。戦争は避けるべきであるが、そのためには、戦争をしない決意だけでは全く不十分であり、抑止や同盟のことを考える必要がある。

 憲法9条と日米安保条約は時折矛盾するように言われるが、これは私から見ると違う。憲法9条が存続し得てきたのは、日米安保条約があるからである。その意味で両者は矛盾するのではなく、相互に補完関係にある。ついでに言うと、象徴天皇制は憲法9条とセットで成立した。1946年憲法はGHQ民生局が1週間くらいで起草した後、ホイットニー民生局長から吉田茂外相に提示されたが、その会談では、その憲法草案を採択しないと、天皇の不起訴を保証し得ないとの圧力が加えられた。

 戦後の日本は象徴天皇制、憲法9条、日米安保の3点セットで成り立っている。その国際政治上のテーマは「軍事的に弱い日本が良い」というものである。このテーマは日本の近隣諸国がこぞって支持したものであった。今も基本的には変わっていない。日本はこの「弱い日本が東アジアの平和と安定に資する」と言うテーマを受け入れざるを得なかった。国にも人にも運命を受け入れざるを得ない時がある。そしてその時にその「受け入れ」を容易にするためには、あたかもそれを自分が率先して言い出したかのように考えることである。「軽武装、経済復興重視という吉田ドクトリンが、戦後日本の柱である」という、吉田さんが聞けば「エーッ」と言いそうなことが言われたが、これには、そういう心理的代償の面がある。(つづく)
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