国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-05-15 08:43

噴飯ものの一院制議連発足

杉浦正章  政治評論家
 自民党が政権を失いかねない政治状況だというのに、またまた悠長でピントの外れた議員連盟の発足である。元防衛庁長官・衛藤征士郎らが提唱して「衆参両院を統合し、一院制の新国民議会を創設する議員連盟」が16日発足する。予見しうる将来において100%実現しないテーマに、首相経験者らが顧問として顔を連ね、気勢を上げるという。ねじれ国会で民主党に追い詰められて、いよいよ自民党も末期的症状か。議連の設立趣意書案は「衆参両院の審議は反復に終始している。一刻を争うはずの国政上の課題が遅滞し、国民の背負うコストは膨大だ」と指摘し、一院制議会の設置を提唱している。たしかに、今の自民党にしてみれば、野党に過半数を制せられた参院の存在は、「無用の長物」かもしれない。とりわけ民主党が国会審議で参院を“占拠”したような戦術を取り、重要法案を3回にわたって衆院の3分の2の多数で再可決しなければならない状況は、政権政党としても我慢がならないものだろう。

 しかし、衆参ねじれ状況が結果的にもたらしたチェック・アンド・バランスの効果が、最近出てきているのは確かだ。年金問題での追及に迫力が生じたのも、“ねじれ効果”だし、政局の最大の焦点になろうとしている後期高齢者医療制度問題も、ねじれていなければ、政府・与党に押し切られるだけだろう。野党が、参院に後期高齢者医療制度廃止法案を提出して、総選挙を経て撤廃に追い込もうという戦術がとれるのも、両院制度の結果である。そもそも一院制を採用している国は、中国などの旧共産主義国か、人口の少ない小国が多い。中国の場合、共産党一党による政治体制が構成されており、一院制は不可欠の政治形態だろう。しかし、一党独裁のもろさは、歴史が証明しており、参考にはならない。

 二院制の欧米諸国がおおむね円滑な政治形態を取っているのは、二院制による民主主義を定着させる“政治能力”があるからにほかならない。米議会も、過去26年のうち18年はねじれ議会、つまり分立政府だ。なぜ分立政府で政治が可能かだが、それは米国の民主政治が大人の対応を可能にしているからだ。ねじれに対応する努力もしないまま、制度を変えるという発想は、苦し紛れの“泥縄政治”そのものだ。自民党は自らの政治能力をのなさを認めるのと同じだ。日本で一院制を導入した場合、両院相互の均衡と抑制が働かない結果、議会が暴走する可能性がある。単眼的審議で法律が成立してしまう恐れもあり、その時の雰囲気に流されて立法がなされる可能性も否定できない。要するに、和製ヒトラーが出てきやすい制度となる可能性が強い。民主主義とは忍耐である。制度を変えようなどという発想は、その忍耐放棄につながる。第一、二院制度は日本国憲法第42条で定められている憲政の柱だ。予見しうる将来憲法が改正される政治状況はない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム