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2008-05-02 17:39

米国の対日占領政策が大転換した瞬間

奈須田敬  並木書房取締役会長・月刊「ざっくばらん」編集長
 本欄「百花斉放」への筆者の前回(4月4日)投稿「マッカーサー元帥の“泣きどころ”をつかんだケナン」を書き終わって、つくづくマッカーサーとケナンにとって、さらにアメリカと日本にとって、この出来事が幸運であったことを、「運命の神」に感謝しないわけにはいかない。なぜか。もし、マッカーサーとの会見前に、ホテルのケナンの部屋にウィロビー情報局長が訪ねて来なかったら、そして二人の意見が一致しなかったら、そしてより基本的なことは、もしケナンがウィロビーでなく、ホイットニー民政局長(もしくはマーカット経済科学局長)に面会していたら、マッカーサーとケナンの会談はどうなっていたか。正直いって、誇張するようだが、筆者は「身の毛のよだつ」思いがする。なぜか。この連載でたびたび登場してきたウィロビー回顧録『知られざる日本占領』(番町書房、昭和48年)を、「奇跡の書」として高く評価しているからである。

 少しばかり同書の中味に立ち入るが、「GS(民政局)とG2(情報局)の対立」「GHQの“内線”」の二章を熟読すれば、GHQ(占領軍)の人事、思想、政策がどんなものであったかが、手に取るように分る。ウィロビーは冒頭、不愉快げに次のように回顧している。「東京時代の思い出が、私にとってすべてなつかしいわけではない。なかでも、GHQにおけるかつての同僚で、民政局(GS)の局長だった、いまは亡きホイットニー将軍との思い出は、残念ながら『なつかしいもの』とばかりはいえない。GSは、戦後日本の政治動向を把握して、これをアメリカが夢みる民主化の方向に導いて行く必要から、1945年の10月、マッカーサー上陸直後に設けられた、新しいセクションである」と。

 「戦後日本の政治動向を把握」することとは、占領下日本の政治、軍事、経済、教育の全般をコントロールし、アメリカの望む方向へリードしていこうという、いわば占領政策の中枢部門である。しかし問題は「アメリカの望む方向」の内容であった。GSの担当する諸部門のトップクラスには、ホイットニー(元弁護士)好みの人間が配置されたが、そこにウィロビーは疑惑の目を向けたのだ。「ホイットニーは、チャールズ・L・ケーディス大佐を次長に据え、国会課長にはウィリアムス、法規課長にはローウェル中佐を配し、(略)このように、彼自身はニューディーラーではなくとも、ニューディールの流れを汲む、かなり急進的なリベラリストたちを、多く起用していた。要するに、ホイットニーは“文化人”で、“かしこい男”だったのだが、私の目にはどうも容共主義者に見えて仕方がなかった」と。

 ドイツ生れで、16歳で渡米し、生っ粋の軍人として「アメリカの正義と真実に対して絶対の信頼を置いている」ウィロビーにとって、それを批判する“進歩主義者”やリベラリストたち、いわんや容共主義者は、「私の敵、アメリカの敵」と見なさざるを得ない。以上のように、表向きには問題化しないまでも、GHQ内部の対立、対決、“内戦”はしだいに「知る人ぞ知る」へ移行していった。吉田茂(白州次郎)ラインが、ウィロビー派にラブコールを送ったのもうなづけるし、カリスマ最高司令官マッカーサー元帥も、その出自からみて、ウィロビーに軍配を挙げる方向へ心の中では一歩踏み出していたといえようか。そこへ、腹心ウィロビーの巧みな誘導で、マッカーサーは「喜んで」ケナンと会う気になり、「夜の長い会見」を望んだ。占領政策大転換の瞬間であった。
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