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2008-04-14 08:12

“世襲の罠”に落ちた高齢者医療制度

杉浦正章  政治評論家
 永田町で政治家を含めた会合があるたびに“各種失政”について、「世襲議員だから無理もない」というところに落ち着く話題が増えた。15日に年金から源泉徴収が始まる後期高齢者医療制度(長寿医療制度)についてもそうだ。世襲政治家である首相や議員には、弱者の痛みが分かるはずはないというのである。この問題は年金問題以上に世論の反発を招きつつある。政府・与党は、制度を撤回するなら早いほうが良い。「パンがないなら、ケーキを食べたらいいじゃない!」とルイ16世の王妃マリー・アントワネットが述べたが、06年6月の与党による医療制度改革関連法の強行採決は、当時の首相・小泉純一郎もアントワネット風ではなかったかと思わせる。年金問題にせよ、高齢者医療にせよ、どうも最近の政治の風潮は、生活者の目線がない。物価の高騰で主婦があえいでいても、何の施策も打ち出さないで、首相福田康夫からは他人事風の論評ばかり目につく。年金問題を「公約と言うほど大げさなものか」という発言が、アントワネット風のよい例である。

たしかに一昔前と比べて所得格差の拡大に加えて、弱者切り捨てと思われる対応が目につき始めている。これを世襲議員のせいにするのは短絡だろうか。現在2世・3世議員の累計は、衆院の全議席中39%になるが、政権与党の自民党では52%である。自民党は過半数が世襲議員となった。民主的プロセスを経て当選してきた世襲議員を全面否定するつもりはない。しょせんはこの有権者が、この政治家を育てるのである。しかし実態を見ると、利益集団の後援会中心の選挙スタイルは、“城主”さえいれば維持できるのである。たとえ政治家としての能力に欠けていても、御神輿を担げるのである。加えて政治家の側も、トータルで数十億もの巨額な投資して育ててきた地盤を他人に渡したくない心理が働く。それが子供に議員を継がせたがる原因でもある。従って受け継ぐのは父の政治哲学でなく、家業なのである。世襲議員は、この国を、社会を何とかしようと思って立候補したのだろうか。高齢者が年金から引かれる6千円、7千円の痛みが分かって政治をしているのかである。

面白い分析を思いついた。世襲政治家である戦後の歴代首相10人が、父または祖父、伯父などと比べてどちらが優れていたかである。独自の判断で決めさせて貰うが【優れていた首相】は、吉田茂、芦田均、宮沢喜一、小渕恵三、小泉純一郎。【優れていない首相】は、細川 護熙、羽田孜、橋本龍太郎、安倍普三、福田康夫である。橋本龍太郎については異論があるかもしれないが、私は父・橋本 龍伍の方が優れていたと思う。安部、福田については異論は出ないだろう。首相になるほどの人物で歴代5割が父などより劣るのである。ましてや一般代議士においては、この割合は相当高くなるに違いない。諸外国にも世襲はあるが、日本ほど多い例はない。そのアントワネット風政治の風潮の中で出てきたのが、高齢者医療制度だ。同制度は“世襲の罠”に落ちたものかもしれない。これはどう言い訳をしても、野党に分がある。最初政府・与党は参院選挙に勝てばもっと厳しい“取り立て方式”を考えていたようだが、負けて真っ青になった。慌てて昨年末、保険料の軽減を打ち出した。しかし厚労省官僚のご多分に漏れず、事実上周知徹底はゼロ。年金問題発生で周知を躊躇していたのが実情だろう。

同制度への反発は地方議会にも燎原の火の如く広がっており、毎日新聞の調査では08年3月末時点で全国1865の自治体中、544議会が制度の見直しや撤回などを求めて決議した。過ちを改めざる、これを過ちという。アントワネット風政治は、大局観にも欠ける。姥捨て山徴収を改め、将来福祉目的消費税などで大網をかけるけるべきだろう。これが大局観だ。今後、高齢者で自殺者がでれば、新医療制度のせいになる。このままで選挙をすれば、自民党をめぐる情勢は参院選挙より悪くなる気がする。     
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