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2008-04-02 10:17

懸念深まる中国の軍事力増強とその意図

鍋嶋敬三  評論家
 中国の2008年国防予算は前年比17.6%増で20年連続二桁の伸びとなった。米政府は実際の国防関係費は2-3倍になると見ており、急速な軍事力拡大を続ける中国に懸念を深めている。米国防総省が3月、議会に提出した2008年版中国の軍事力年次報告は「中国の軍事力拡張が東アジアの軍事バランスを変えつつあり、その戦略的能力の向上はアジア・太平洋地域を超える意味合いを持つ」と強い警戒感を示した。特に核戦力の近代化は、新型ICBMの開発、昨年1月の人工衛星破壊実験の成功、中国を発信源とするコンピューター・ネットワークへの侵入などと相まって、中国の戦略的攻撃能力の強化を意味するものであり、重大視している。

 年次報告は1996年から2006年までの間、インフレ調整後の国防費は11.8%の伸びで国内総生産(GDP)の伸び9.2%を上回ったとするデータを紹介した。2007年の国防費(改定値)は459.9億㌦だが、戦略兵力、外国からの兵器調達、研究開発費などが含まれていないため、軍事関係費の総額は2007年で970億ドルから1390億ドルに達すると試算している。懸念されるのは、軍事費の増勢だけではない。透明性の欠如が一番の問題だとしている。軍事的な拡張の動機や政策決定の過程が不透明であるため、他国との間で誤解や誤算の可能性が増し、地域や世界の安定に対するリスクが出てくると分析している。

 中国は2005年、2機目の有人宇宙船に続き、2007年10月には月探査衛星を打ち上げた。宇宙での資源獲得競争の意図とともに、軍事的な意図があることは疑い得ない。同年11月の米中国防相会談で、偶発的事故を回避するため軍事ホットライン開設や安全保障対話の強化で一致した。しかし、米太平洋軍のキーティング司令官は、2008年3月の議会証言で実際の軍事交流が米国が望む水準に達していないと不満を示している。

 中国の軍事力を巡る最大の問題は、戦略的に何を目指そうとしているのか、その意図が不透明なところにある。アジアの安全保障に詳しいジャーナリストのリチャード・ハロラン氏は、米外交問題評議会のオンライン討論会で、中国の将来について4つの可能性を指摘した。(1)アジアを支配し、西太平洋から米国を駆逐しようとする攻撃的な中国、(2)民主化された温厚な中国、(3)自らを世界の中央に位置付ける「中華」の再興、(4)群雄割拠する分裂中国。同氏は、推測として(3)の可能性を挙げた。この場合中国は、軍事侵攻せずにアジアを支配するだけの、政治、経済、外交、軍事の各分野で十分なパワーを蓄え、アジアのいかなる国も中国の許し無しには重大な決定ができなくなるというシナリオである。その兆しは、既に表れている。国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指す日本をくじいたのはアジア、アフリカへ急速に影響力を高めた中国であった。巨大で強力な軍事力構築を目指す中国の戦略的な意図がハロラン氏のようなものであるとすれば、日本はどのように対処すべきか。日本の国家戦略が問われているのである。
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