国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-03-28 17:44

対「北」経済制裁延長は間違い

吉田康彦  大阪経済法科大学客員教授
 2年前の2006年10月、(拉致ではなく)核実験に対する抗議の意思表示として発動してきた対「北朝鮮」経済制裁を、福田内閣はさらに延長する方針を固め、4月8日に閣議決定する予定という。日本政府は、昨年10月、拉致問題をめぐる“進展”がないことを理由に、貿易・送金全面禁止、公務員の渡航禁止、船舶の寄港禁止などを含む制裁を、向こう6ヵ月間の期限付きで延長した。来たる4月13日の期限切れを前に、福田首相がいかなる決定を下すかが注目されてきたが、核計画の「申告」をめぐる米朝の対立が解消せず、当面合意に至らないと判断して、延長のハラを固めたようだ。この判断は早計であり、愚策だ。

 今月13日、ジュネーブで開催された米朝協議は、たしかに双方の主張が平行線のまま物別れに終わったが、決裂したわけではない。ヒル、金桂冠両代表とも進展を裏づける発言を繰り返しており、「ニューヨーク・チャネル」などを通して水面下の接触が続いている。プルトニウム備蓄については(6者協議の議長国)中国に、ウラン濃縮とシリアへの核技術輸出疑惑については米国に、それぞれ申告するという妥協案を中心に、米朝の溝を埋める努力が続いているとも伝えられる。いずれにせよブッシュ政権は在任中に朝鮮半島非核d化を実現する方針に変わりなく、日本政府の制裁延長はこの努力に水を差すものだ。

 米朝対立が続いたとしても、これに便乗して経済制裁を続けることは、日朝国交正常化を拒否するとともに、拉致問題の解決をますます遠ざけることを意味する。日本政府としては拉致被害者家族の圧力で経済制裁に踏み切ったのだが、全く逆効果になっていることを知るべきだ。経済制裁は相手の政策転換を促し、譲歩を導き出せなければ無意味だ。制裁が発動されてから1年半、拉致問題でいかなる進展があったというのか。

 北朝鮮当局は制裁下における対話をいっさい拒否し、制裁解除と朝鮮総連に対する弾圧の中止を対話再開の前提条件として要求している。対話なくして拉致問題の解決はあり得ないのだ。経済制裁の実効性はまったくない。私は毎年訪朝しているが、平壌には安価な中国製品にまじって日本商品が溢れている。すべて中国経由で入荷し、少しも困っていない、と関係者はいう。対話不在のまま日本政府が経済制裁をいくら続けても、拉致問題解決につながらないことだけは断言できる。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム