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2008-02-20 15:39

ヤマ場迎えるテロ支援国家指定解除問題

鍋嶋敬三  評論家
 北朝鮮の核開発をめぐる6カ国協議の合意文書(2007年2月)から1年が過ぎた。同年10月には非核化に向けた第2段階の措置を定めた合意文書も発表されたが、「年末までに」と決められた「核施設の無能力化」が完了せず、「すべての核兵器の完全かつ正確な申告」は実行に移されないままだ。10月合意には「北朝鮮がとる行動と並行して」米国が北朝鮮のテロ支援国家指定及び対敵通商法適用の解除の作業を進める約束に言及している。日本にとっては日本人拉致問題の解決が日朝国交正常化の上でも欠かせない。ところが、ブッシュ政権当局者から停滞する交渉打開の狙いを込めて日本人拉致問題をテロ支援国家指定解除の要件から外そうとする意図が公然と言及されるようになった。

 米首席代表のヒル国務次官補が2月6日、上院外交委員会の証言で拉致と解除の問題を「厳密に関連づけることは日米両国の利益にならない」と述べ、北朝鮮が核計画の申告を合意に沿って行えば解除するという公式の立場を明確にした。一方で「対日関係を犠牲にして北朝鮮との関係強化はしない」とも言明している。クリントン前政権や、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだブッシュ第1期政権も日本人拉致問題をテロを巡る対北朝鮮政策の中で高い優先順位を付けていた。2002年9月の小泉純一郎首相訪朝で金正日総書記が拉致を認め、被害者を帰国させたのは、米国との国交正常化をにらんだ外交戦略という文脈の中でとらえることが可能であろう。

 しかし、第2期ブッシュ政権の北朝鮮政策は大きく転換してきた、と米議会調査局の報告書(2008年1月)は分析している。それによると、2006年10月の北朝鮮の核実験以降、ライス国務長官とヒル次官補主導の戦略が展開されてきた。(1)米朝直接交渉に積極的に動く、(2)核計画の完全な廃棄は次期政権に譲り、部分的であっても第2段階までの実施を目指す、(3)北朝鮮が第2段階を米国が満足するように実施すれば、テロ支援国家指定を解除する、という内容だ。ここで日本人拉致問題は切り離されることになる。ライス長官は2007年5月、訪米した安倍晋三首相に対し「テロと日本人拉致を結びつける法的義務を負わない」というブッシュ政権の方針を伝えた、とする韓国メディアの報道を、この報告書は引用している。

 北朝鮮はこれまでの交渉でウラン濃縮疑惑を否定、プルトニウムの詳細な製造記録の提出にも応じていない。米専門家が2月中旬に訪問した際、北朝鮮がテロ支援国家指定や対敵通商法適用の解除、重油の提供などの見返り措置の実施が「すべての核計画の申告」や核施設の「無力化」の条件になるという「先取り」の立場を明確にしたと、伝えられる。クリントン政権末期の2000年10月オルブライト国務長官が訪朝して空振りに終わった。大統領選挙戦に突入した米国で「レームダック(死に体)化」したブッシュ政権が外交的成果を挙げようと譲歩を重ねるほど、北朝鮮がハードルを高めて合意の履行を遅らせようとすることは目に見えている。ヒル、ライス両氏が2月下旬、相次いで日本を訪問するが、日本政府は米国、北朝鮮および6カ国協議に対する外交戦略で極めて厳しい決断を迫られている。
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