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2007-12-12 16:57

核軍縮なくして不拡散なし

鍋嶋敬三  評論家
 国連総会に日本が提出した核軍縮決議案「核兵器の全面的廃棄に向けた新たな決意」が12月5日の本会議で賛成170、反対3(米国、インド、北朝鮮)、棄権9の圧倒的多数で採択された。1994年に初提出以来、最多数の賛成を集め、高村正彦外相は記者会見で「わが国の核軍縮に向けた決意とメッセージが広く国際社会に支持された」と評価した。しかし、核軍縮のカギを握る米国が反対の態度を変えず、さらに核保有国で安保理常任理事国のフランスが昨年までの賛成から棄権に回り中国に同調したことは、これまで賛成してきたロシアや英国の動向にも影響を与えかねず、核廃絶の道のりは依然として険しいものがある。

 14年間も決議案が採択されながら核軍縮への展望が開けないのは、核保有国と非核保有国の対立が解けないためだ。そればかりか、北朝鮮の核実験・核保有宣言、テロリストによる核拡散の脅威はますます強まろうとしている。採択された決議は(1)核拡散防止条約(NPT)の順守、(2)包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効・核実験凍結の継続、(3)兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉開始と早期妥結の重要性を強調した。さらに3年後の2010年NPT運用再検討会議への協力を国際社会に呼び掛けた。米国と中国はCTBTを批准していない。それどころかNPT体制そのものが揺らいでいる。核保有のインド、パキスタン、イスラエルはNPT体制の外にある。NPTから脱退を表明した北朝鮮は昨年10月、核実験をした。北朝鮮の核開発をめぐる6カ国協議は核施設の無能力化をめぐって難航している。

 NPT体制は2005年に大きく後退した。2000年の再検討会議では核軍縮の分野で13項目の合意が出来た。最も大きいのは核の全面廃絶に対する核保有国の「明確な約束」であった。NPTは核保有国(米露英仏中)による核兵器独占を認める一方、非核保有国には原子力の平和利用を保証した。不平等条約だが、これが成立したのは核保有国が核軍縮への「誠実な交渉」を約束したからである。NPT体制を蘇生させ核不拡散を抑えるためにも「明確な約束」は大きな意味を持っていた。

 ところが米国はブッシュ政権下で2000年合意は政治的文書にすぎないと「明確な約束」を無視する方針に転換した。米国の有識者が11月に発表した「スマート(賢い)パワー」報告書は次期政権が外交、安全保障政策を転換し国際協調路線を重視するよう提言している。しかし、核の問題では核兵器が無法者国家やテロリストの手に落ちることが米国にとって「最大の脅威」と位置付けているにすぎない。核拡散は本をただせば核保有国の軍拡が「手本」になっている。核パワーが核軍縮に誠意を持って取り組むことこそが核の拡散を防ぐ第一歩ではないか。
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