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2026-02-16 18:51

「高市防衛力強化」がなぜ戦争国家なのか?

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 高市自民党は2026年2月8日の総選挙で198議席から単独過半数を超える316議席を獲得し圧勝した。これに対し中道改革連合は167議席から49議席に激減し惨敗した。この劇的な選挙結果を受けて高市首相は、選挙公約である「責任ある積極財政」と「防衛力の抜本的強化」の推進を宣言した。
 
 中道改革連合の野田共同代表や各候補者らは選挙期間中、高市首相公約の「防衛力の抜本的強化」に反対し、「高市政権では戦争になる」「選挙に行ってママが戦争を止めてくる」などと大宣伝した。共産党も「戦争国家になる」と宣伝した。こうした宣伝は、2015年の安保法制制定時に当時の民主党が「徴兵制になる」共産党が「戦争国家になる」などと宣伝したことの再現に他ならない。安保法制制定から10年が経過した現在も日本が戦争国家にも徴兵制にもなっていないことは明らかである。きわめて悪質なデマ宣伝であったというほかない。

 共産党は、常時機関紙『赤旗』で『大軍拡反対』を宣伝している。その基本的主張は「自民党政権による敵基地攻撃能力を含む違憲の大軍拡は、日本を対中軍事戦略の最前線に立たせるという米国の要求にこたえるためであり、際限なき軍事費増大は戦前の戦時国債乱発による侵略戦争の反省を無視した財政民主主義を破壊する暴挙である」(『赤旗』2025年2月1日、2月3日)というものであり、自民党政権そして高市政権を激しく攻撃する。共産党が反対する「大軍拡」とは、自民党岸田政権が2022年12月に策定した「安保3文書」に基づく反撃能力保有などを含む防衛力の抜本的強化を指すものである。具体的には米国製長距離巡航ミサイル・トマホーク取得、射程1000キロ超国産各種ミサイル開発取得、イージス・アショアに代わるイージス・システム搭載艦建造、軍事衛星コンステレーション構築などによる当時の防衛費8兆7000億円の予算を意味している。高市政権はその後の中ロ朝の軍事連携強化などによる安全保障環境のさらなる悪化を踏まえ、超高性能各種ドローン兵器の大量開発導入、「安保3文書」の見直し、防衛予算の拡充、自維連立合意に基づく極超音速長射程ミサイル開発、原子力潜水艦導入、憲法9条改正、非核三原則見直しなど、さらなる防衛力の抜本的強化を目指すものである。

 共産党の宣伝によれば、ロシアによるウクライナ侵略前の2022年度の軍事費は5兆4000億円であったが、侵略後の2023年、2024年と軍事費は年々増大し、2025年度には8兆7000億円になり、2022年度に比べ3兆3000億円も増加している(『赤旗』2025年2月3日)。しかし、このことからも、自民党政権による防衛力強化、防衛費増大が2022年2月のロシアによるウクライナ侵略が最大の原因であることは明らかである。ところが、共産党は自民党政権による防衛力強化の最大の原因であるウクライナ侵略にはまったく触れず、「大軍拡」による軍事費増大の原因は上記の通り「日本を対中軍事戦略の最前線に立たせるという米国の要求にこたえるためである」と断定し、「アメリカ言いなり」「対米従属」「日米同盟至上主義」などと激しく攻撃するのである。

 このように、自民党政権による防衛力強化の最大の原因がロシアによる「ウクライナ侵略」であるにもかかわらず、共産党がこれを無視する理由はこれを認めると「大軍拡反対」の根拠がなくなるためである。その根底には共産党のイデオロギーである「非武装中立主義」がある。共産党は党綱領で「自衛隊違憲解消」と「日米安保廃棄」を主張しているのである。核軍事大国であるロシアによる「ウクライナ侵略」はまさに国際法違反の「力による現状変更」にほかならず、もしもこれが容認されれば、同じく核軍事大国である中国による「台湾侵攻」「尖閣侵攻」に波及しかねない。自民党政権そして高市政権はこのような事態を何としても防止し抑止するために、米国と協力し防衛力の抜本的強化に取り組んでいるのである。

 米国の対中軍事戦略の核心は、日米安保および米英豪オーカスによる対中包囲網である。すなわち、米国を中心とする上記各国の軍事協力による対中抑止力の強化である。中国の最大の弱点は、米国のように多角的な軍事同盟関係を有しないから、中国一国で米国を中心とする上記軍事同盟国と戦うことは極めてリスクが大きい。このことを習近平政権も熟知しており、このことが強力な対中抑止力となっているのである。共産党は、近年における「日米軍事一体化」の危険性を宣伝する。すなわち、日本自衛隊の対米従属関係により、対中軍事戦略においても日本自衛隊が最前線に立たされる危険性があるというのである。しかし、安保法制に基づく日本の集団的自衛権の行使は、無制限ではなく、第三国による米国に対する武力攻撃が日本の存立を危うくする「存立危機事態」や、日本に対する「武力攻撃事態」に限られるから、日本自衛隊が対中軍事戦略の最前線に立たされることはなく、あくまでも米国が対中軍事戦略の主体であり中心である。

 共産党は党綱領で自衛隊の解消と日米安保の廃棄を主張する「非武装中立主義」の政党である。日本は自衛隊や日米同盟によってではなく、東南アジア諸国連合との連携強化など「平和外交」により日本の平和と安全を守れると宣伝する。この観点から『大軍拡反対』の主張が出てくる。しかし、自衛隊も日米同盟も全く不要であり丸腰の「平和外交」だけで日本の平和と安全が守れると考える国民は一部の左翼学者や共産党支持者を除けば極めて少数であろう。このことは日本国民の89パーセントが「日本防衛」に自衛隊と日米同盟が役立っていると認める世論調査でも明らかである(2022年11月内閣府世論調査)。今回の総選挙で共産党は前回の総選挙より比例得票数を336万票から251万票に大幅に減らし、獲得議席も8議席から4議席に半減し惨敗した(『赤旗』2026年2月10日)。きわめて非現実的で危険な共産党の安全保障政策に国民の支持はなく、政権が取れる見込みが全くないからこその無責任な「政策」に他ならない。「高市防衛力強化」は、1994年の米ロによる「ブタぺスト覚書」を信じて核を放棄した上に、通常戦力においても自国の国土が戦場になる「専守防衛」のため、モスクワを射程に収める長射程ミサイルを全く保有せず、対ロ抑止力が脆弱であったからこそロシアによる侵略を受けたウクライナの深刻な教訓を生かし、中国による「台湾有事」「尖閣有事」をひたすら抑止するための日本国を守る安全保障政策に他ならない。「高市防衛力強化」が、共産党や中道改革連合の一部が宣伝するような日本国を他国を侵略する「戦争国家」にするものでは断じてあり得ないのである。
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