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2025-11-24 21:25

信仰共同体としてのアメリカ

舛添 要一 国際政治学者
 トランプ大統領は、西アフリカのナイジェリアで多数のキリスト教徒が殺害されているとして、アメリカが軍事介入する可能性を示唆した。ナイジェリアで何が起こっているのか、そして、トランプの警告の背後には何があるのか。ナイジェリアは、人口が2億3千万人とアフリカ最大で、石油などの天然資源に恵まれている。国土の面積は、日本の約2.4倍である。三大民族は北部のハウサ人、南西部のヨルバ人、南東部のイボ人で、宗教は北部がイスラム教、南部がキリスト教で、人口比率はほぼ半々である。公用語は英語である。1960年にイギリスから独立した後、宗教対立から、イスラム教徒がキリスト教徒を襲撃する事件が頻発してきた。2010年には、ベロムで2000人以上のキリスト教徒が殺害され、キリスト教会も破壊された。
 
 2020年12月、米国務省は、「世界で最も信教の自由が侵害されている国の一覧」を公表したが、ナイジェリアは「特に懸念のある国」とされた。共和党のクルーズ上院議員は、ナイジェリアを「信教の自由を侵害する国」に指定するように議会に働きかけを行ってきた。10月21日には、Xに投稿し、「ナイジェリアでは、信仰の故に世界で最も多くのキリスト教徒が殺されている。2009年以降、イスラム過激派は5万人以上のキリスト教徒を殺害し、2万以上のキリスト教の教会、学校などを破壊した」と述べている。それを受けて、トランプは、10月31日、ナイジェリアを「特に懸念のある国」に再指定した。そして、国防総省に軍事介入の準備をするように指示した。また、ナイジェリアへの援助も停止する可能性も示唆した。バイデン政権下の2023年には、アメリカはナイジェリアに10億ドル(約1540億円)の援助を実行した。2025年は、これまで2億5千万ドルしか援助していない。
 
 いずれかの国で、宗教対立から、キリスト教徒ではなく、イスラム教徒が大量に殺害されているとしたら、トランプは、今回と同じような対応をしたであろうか。答えは否である。信仰故に迫害されたイギリスの清教徒が、大西洋を渡り、作ったのがアメリカである。人工的な国で、日本やヨーロッパ諸国とは異なる。アメリカとは何か。それは、「キリスト教」である。プロテスタントが主流であるが、新天地を開拓していく人々にとっては、まさに命がけの日々であり、心の支えが不可欠であり、それがキリスト教の信仰であった。トランプは権力基盤を大衆に置くポピュリストの扇動家である。今日の政治は左翼と右翼ではなく、高学歴で自立した層と低学歴で集団思考の層との「対立図式」であり、後者は論理ではなく感情を優先する。キリスト教徒を殺害している国に対しては武力侵攻するというトランプの主張は、「キリスト教のアメリカ」では、多くの国民に支持されるであろう。
 
 アメリカが西部を開拓していくとき、それを正当化する標語が「マニフェスト・デスティニー(Manifest Destiny)」であり、「明白なる使命」、「明白なる運命」などと訳される。トランプは、今年の1月20日、大統領就任演説で、マニフェスト・デスティニーいう言葉を使い、保護主義を実行したマッキンリー大統領(在任1897~1901年)を模範としたのである。「キリスト教のアメリカ」に加えて、「マニフェス・トデスティニー」は、今後、トランプ政権が世界各地で軍事介入するときの正当化に使われていくであろう。日本もヨーロッパも、この「異質な国」アメリカ、とりわけトランプ政権への対応に苦慮せざるをえない。
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