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2025-11-13 17:08

やはりトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦してはならない

河村 洋 外交評論家
 去る11月4日の衆議院本会議にて立憲民主党の野田佳彦代表が高市早苗首相に対し、ドナルド・トランプ米大統領へのノーベル平和賞推薦に対して質問をした。高市氏は当件への回答を巧妙に避けた。そんな姑息な手段で本件の幕引きを許してはならない。何と言っても、高市首相はトランプ大統領の「犬猫食い」発言の猿真似で「鹿蹴り」発言をしたほどである。そして自民党総裁選および衆参両院の首相指名選挙でも、このようなトランプ流デマゴギーを駆使した候補者は他にいなかった。どうやら高市氏は相当なMAGA脳の持主のようだ。今日の国際政治において地政学上のパラダイム・シフトが頻繁に議論されているが、トランプ氏がノーベル平和賞を受賞する事態ともなれば普遍的な国際規範が軽視される価値観のパラダイム・シフトまで起きかねない。現在、右翼ポピュリズムの拡散は国家間の対立激化にも劣らぬほど、国際安全保障の脅威となっている。なお安倍政権期にも日本はトランプ氏をノーベル平和賞に推薦していたが、当時はあの大統領の子供じみた虚栄心の吐露も一種のジョークだと受け止められていた。しかし2期目になって、トランプ氏の個人的欲望が強い狂気を帯びていることに留意すべきである。
 
 先稿ではトランプ氏へのノーベル賞平和賞推薦に反対する理由を長文で述べたが、本稿では以下の3点に絞りたい。第一にトランプ政権による国内派兵は、世論に厳しく非難されている。兵の正しい運用は国家統治の基本であり、それができない政治家では平和の達成など覚束ない。いかなる国であっても、国軍の最高司令官は適正手続きで軍事力を行使せねばならない。トランプ氏は民主党の州政や市政下にある地方自治体に政治低圧力をかけようと、犯罪や非登録移民の撲滅を名目に各地の州兵を動員している。あまりに強引な手法に、軍が自国民に銃を向けるのかと非難の声が高まっている。まさにトランプ大統領への軍事指揮権付与は、「気狂いに刃物」である。そのため全米各地の司法の場で、こうした州兵派遣には次々と違法との判決が出ている。日本人にも馴染みの話では、NDLON(全米日雇い労働者組織化ネットワーク)が移民排斥への抗議から、本年ワールド・シリーズ優勝のロサンゼルス・ドジャースに対してトランプ大統領との会見辞退を求める多数の署名を寄せている。
 
 第二にトランプ大統領は核実験再開の方針を打ち出してしまった。長年にわたる核軍縮の機運を後退させる動きである。トランプ政権のクリス・ライト、エネルギー長官は再開される実験は核爆発を伴わぬ臨界前核実験だと表明した。これなら包括的核実験禁止条約で禁止されていないとはいえ、その直後にロシアも核実験再開を宣言した。中国など他の核保有国もこれに続く懸念もある。やはりアメリカ・ファーストで国際協調を顧みないような大統領は、ノーベル平和賞に相応しくないのだ。
 
 第三にトランプ大統領が受賞し、それで大々的に勝ち誇った態度で自己宣伝に走る事態の悪影響も考慮すべきである。あの粗暴で自己顕示欲が強いトランプ氏だけに、それを契機に大統領選挙での三選出馬をさらに強く主張しかねない。そもそも彼は2020年大統領選挙で落選した際には1月6日暴動を扇動したほど、何事もゴリ押ししてきたような人物である。そのような右翼ポピュリズムによる民主主義の危機の悪化に、日本が手を貸すようなことがあってはならない。
 
 とはいえ高市氏は自説を曲げぬ頑迷なところがあるとも言われる。となると、かなりの大物政治家でもないと現首相に助言はできないだろう。上記3つの問題点の内、第一と第二に関しては知見豊かな首相経験者もいる。岸田文雄元首相は核軍縮がライフワークであり、石破茂前首相は軍事オタクとして知られている。両元首相とも、現時点では自民党低迷の一因となった「政治とカネ」スキャンダルに関わっていないことになっている。それもまた、両人の強みでもあろう。私は国際政治を主要テーマとする者で、永田町内の党利党略も派閥力学も二義的、三義的な関心事に過ぎない。そして右翼ポピュリズムの拡散による世界秩序の破壊および普遍的な価値観と規範のパラダイム・シフトは、国際安全保障への重大な脅威だと見做している。そうした立場から、日本政府によるトランプ米大統領へのノーベル平和賞推薦の問題が幕引きされてはならないと訴えたい。
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