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2025-11-04 23:45

(連載1)高市首相のMAGA追従外交に異議

河村 洋 外交評論家
  先の日米首脳会談にて、新任の高市早苗首相がドナルド・トランプ米大統領のノーベル平和賞受賞を支持したことに唖然とした。私はそれまで別の件での投稿を準備していたがこれを黙って見過ごすわけにはゆかず、今回はそちらを延期して急遽本件について寄稿することとする。
 
 元々、私は先の自民党総裁選挙より高市氏の言動を危険視していた。そして最も望ましいと思った自民党総裁候補は林芳正官房長官(当時)であった。私が高市氏への危険視を強めるようになった契機は、あの「鹿蹴り」発言である。その発言は排外主義だと批判され、さすがの高市氏もこれを引っ込めざるを得なくなった。だが私は同発言の時の高市氏の目付きには本能的な恐怖感を抱いた。まるで嘘でも何でも競争相手を言いくるめ、国民を扇動させた者の勝ちだと言わんばかりで、そのためには手段を選ばぬような目付きだった。これについては心理学者などによる、さらに専門的な分析が必要ではあろう。ともかく権力奪取のためにはこうした出鱈目な大衆扇動も辞さないやり方は、トランプ氏の「犬猫食い」発言と軌を一にするものである。右翼ポピュリズム、恐ろしや。
 
 そして新総裁は就任早々、参政党との連立協議まで行なった。これは実現しなかったものの、高市政権の右翼性を示すものとなった。トランプに対するノーベル平和賞受賞の推薦は、こうした一連の言動の延長線上にあるものだ。だからこそ、私は先の日米首脳会談に見られた、高市氏のMAGA追従に唖然としたのである。
 
 ところでトランプ氏はノーベル平和賞の受賞に相応しいのだろうか?まず国際社会での業績を評価するならガザとウクライナの和平が二大案件となるが、どちらも平和構築の目処は立っていない。ガザではイスラエルとハマスの人質交換を大々的に誇示したトランプ氏だが、その後はハマス武装解除の見通しは立っていない。そもそもイスラエルの人質解放人数では、バイデン政権の方が多かった。そしてウクライナでもロシアの攻撃が収まる気配はない。ウラジーミル・プーチン大統領とトランプ大統領の間の良好なパーソナル・ケミストリーは、和平には全く役立たない。印パ紛争ではパキスタンは満足したが、インドはトランプ調停に不満である。他のトランプ調停も完全に問題解決というわけではない。とてもではないが、ノーベル平和賞に値する成果など挙がっていないのである。
 
 そしてトランプ氏をノーベル平和賞に推薦しているのがどのような国かとなると、世界でも最高水準の自由民主主義体制と国は皆無である。まず中東唯一の民主国家を標榜するイスラエルであるが、ネタニヤフ政権のガザ攻撃は民間人への過大な被害から人道面で国際的に非難されている。その他の支持国も専制国家や右翼ポピュリズムに統治される国々ばかりである。具体的な国名を挙げると、アルメニア、アゼルバイジャン、カンボジア、ガボン、ルワンダ、アルゼンチン、ハンガリー、ギニア・ビサウ、セネガルといった顔ぶれである。日本は明治維新以来、世界の文明国あるいは一等国の仲間入りを国是に邁進してきた。高市首相のノーベル平和賞推奨宣言は近代日本の歴史的な方向性とは逆で、日本を「恥知らずリーグ」の仲間入りさせてしまう。
 
 トランプ氏の平和賞受賞資格について、何よりも問題視すべきは軍の正しい使い方を知らないということである。これでは平和の政治家とは、とても呼べない。トランプ大統領は非登録移民をめぐる国内での政治闘争に軍を動員しているが、これでは戦争に向けても平和に向けても指導力を発揮できない。ラテン語の有名な諺で“Si vis pacem, para bellum.”(汝平和を欲さば、戦への備えをせよ。)と言われるように、軍の使い方を誤っての平和は有り得ない。トランプ政権は国内では民主党市政のシカゴやポートランドなどに、犯罪や非登録移民への対策と称して州兵を派遣している。こちらは大統領の一方的な命令では派兵できないはずである。また麻薬対策と称し、議会の承認もなくベネズエラの船舶を攻撃している。トランプ政権は理由も、その論拠となる証拠も、議会や国民への説明責任もなしに、自分達には相手が誰であろうが所構わず殺傷する権利があると主張する。そのような主張を、保守系反トランプ派の代表的論客であるウィリアム・クリストル氏は厳しく批判している。ともかく、こんな大統領なら勝手に核実験くらい再開するだろう。このように国際政治のみならず、国内政治の観点から見てもトランプ大統領はノーベル平和賞には値しない。なぜ高市首相は嬉々として、このような人物を推薦するのだろうか?日本国の最高指導者の思考や感性がMAGA化しているなら、由々しき問題である。(つづく)
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