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2025-10-17 16:26

チャーリー・カーク銃撃事事件・・内戦の危機・・分断するアメリカ

舛添 要一 国際政治学者
 9月10日、ユタ州のバレー大学でイベントに参加していた31歳の保守政治活動家、チャーリー・カークが銃撃され、死亡した。容疑者は、22歳のタイラー・ロビンソンで、逮捕され、検察に訴追された。この事件に対して、トランプ政権は、異例の対応を展開しており、アメリカの分断が深まっている。

 チャーリー・カークは、1993年10月14日にイリノイ州シカゴ郊外で生まれた。高校のときから、学内外で反リベラルの立場からの政治的言動を行った。ハーパー・カレッジに進学し、中退した後、ベネディクティン大学に進み、ここでも政治活動を展開した。そして、2012年に、草の根の学生組織「ターニングポイントUSA(TPUSA)」を設立した。この組織の目的は、「小さな政府」、自由主義経済などの理念を広めることである。カークは、トランプ大統領を熱烈に支持し、MAGA(アメリカを再び偉大に)運動を推進し、今回の大統領選では若い世代をトランプ支持に変えるのに大きな貢献をした。カークの政治的主張は、反リベラルで、LGBTに反対、人工妊娠中絶に反対、銃規制に反対であり、反移民など「アメリカ第一主義」である。さらに、JDバンス副大統領との関係も注目に値する。バンスは、9・11(同時多発テロ)24周年追悼式をキャンセルし、副大統領専用機で自らカークの遺体をアリゾナ州フェニックスの自宅に運んだ。

 以上のような背景があるにせよ、この事件に対するトランプ政権の対応は異常である。公人でもない被害者の遺体の搬送に、副大統領が副大統領機を使うこと自体が常識外のことで、普通の民主主義国では許されないことである。カークの死を悼んで、公的機関に半旗を掲げる命令を下したことも非常識である。さらに、この事件をめぐる発言で、停職や解雇が相次いでいる。SNS などで、不適切な発言を行ったとして、公務員のみならず民間の人々も停職や解雇の処分を受けている。シークレットサービス(大統領警護官)、パイロット、教員、医療従事者などである。バンスは、「カークの暗殺を称賛する者たち、そして、そのようなテロリストの共感者に給料を支払っている者たち」を強く批判した。テレビ局のABCは、「ジミー・キンメル・ライブ」の司会者のコメディアン、ジミー・キンメルは、カーク銃撃事件について不適切な発言をしたとして、番組が無期限に打ち切られた。また、トランプは、「銃撃犯人は死刑だ」と述べたが、量刑を決めるのは裁判所であり、三権分立というアメリカの制度を理解しない暴言である。さらに、トランプはカークに大統領自由勲章を授与するというが、この授与の基準も根拠が曖昧である。

 9月15日には、トランプは、「彼は左派だ。左派には多くの問題がある。左派は保護されているが、保護されるべきでない」と述べた。トランプ側近のミラー次席補佐官は、左派の解体が必要だと強調した。極右の間では、「カーク批判者摘発運動」が起こっている。もし、銃撃事件の被害者が民主党の政治活動家だったら、トランプ政権は全く異なる対応をしていたであろう。そこにあるのは党派性であり、分断されたアメリカである。民主主義の基本であるルールの順守も法の支配もない世界である。この亀裂は、トランプ政権下でますます広がり、修復される可能性は見えない。その行き着く先は内戦である。国民の統合を図るどころか、トランプは国民の分裂を加速化させている。
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