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2025-10-06 09:32

「大戦前夜」の危機感あるか?

鍋嶋 敬三 評論家
 自民党の新総裁に10月4日、高市早苗氏が選ばれた。中旬に召集される臨時国会で第104代首相に指名される見通しだ。いずれも女性として初めてで政治史上画期的なことである。石破茂政権が衆参両院選挙で少数与党に陥って政権運営が行き詰まり、自民党が総括で「解党的出直し」を掲げた総裁選挙を実施して誕生した。しかし、日本が政争に明け暮れている間、ロシアのウクライナ侵略など戦火が世界に広がった。欧州では9月以降、ロシアによる領空侵犯が相次ぎ、第3次世界大戦前夜の危機意識が急速に高まっている。アジアで唯一、先進7カ国(G7)の一員であり、世界平和の維持にも責任を持つ日本では国会論議、総裁選挙を通じてこのような危機感が全く示されなかったのは驚くべきことである。6月25日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の宣言は防衛支出を2035年までに対国内総生産(GDP)比を2%から5%に引き上げる目標を掲げた。加盟国への攻撃に対してはNATO条約第5条に基づく集団防衛の発動やウクライナへの支援を再確認した。

 これに先立つ欧州連合(EU)と英国の首脳会談(5月19日)ではウクライナ防衛のため、防衛装備の共同調達を約束した。いずれもウクライナの次はロシアや同盟国ベラルーシと国境を接するエストニアなどバルト3国やポーランドが標的になると知っているからだ。トランプ米大統領はロシアにウクライナ戦争の停戦や和平を呼びかけてきたが、プーチン大統領の巧妙な引き延ばし作戦に引き込まれて、目に見える成果は全く見えてこない。ロシアによる欧州への挑発が急激に露わになったのが9月である。9日から10日にかけてポーランドにロシアの無人機19機が領空侵犯、一部は200~300km以上飛行したという。NATOはポーランドやオランダ、イタリアやドイツの戦闘機、空中警戒管制機、防空ミサイルシステム「パトリオット」を動員して3機を撃墜した。NATO領空でのロシアのドローン撃墜は初めてとされる。

 フランスのマクロン大統領はスターマー英首相やルッテNATO事務総長と協議、戦闘機3機をポーランドに派遣、ドイツもポーランド国境近くの基地に戦闘機を増強した。一方、ロシアも同時期にベラルーシと合同軍事演習を実施、核搭載可能な中距離弾道ミサイルの運用を訓練。ベラルーシにはロシアの戦術核兵器の配備が決まっている。攻撃はさらに続く。9月13日にはルーマニアに領空侵犯、19日にはエストニアにミグ戦闘機3機が12分間、領空侵犯、イタリア軍の戦闘機が緊急発進し撃退した。欧州諸国の危機感の背景は「トランプの米国」がロシアによるさらなる欧州侵略を防ぐ気があるのか、という懐疑論である。仏独英は共同戦線を張って欧州防衛に米国が背を向けないように努めてきた。

 NATOには集団防衛体制があるが、日本は頼りになるのは日米安全保障条約だけである。トランプ氏は日本は米国を防衛する義務がない不平等条約だと不満を口にしている。第二列島線上の米戦略基地グアム島防衛など米国から将来、条約改定の要求が出る可能性があることは心に留めておくべきだろう。岸田文雄内閣で2022年12月に新たな国家安全保障戦略が決定され、防衛力の抜本的強化のため、2027年度までに防衛費GDP比2%にする目標を掲げた。「2027年」はかねて米国で台湾侵攻危機説が唱えられてきた年である。しかし、防衛力強化のための所得増税はいまだに手つかずだ。自民党総裁の残された任期は2年間で2027年までである。高市新政権は首相指名ー組閣ー野党との連立協議と綱渡りの政権運営を迫られる。10月下旬には首相就任直後に来日するトランプ大統領との会談が待ち受ける。最初にして最大の首脳外交であり、高市早苗氏はいきなり日本の新指導者としての力量を世界に問われる。
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