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2025-10-01 14:19

「民主集中制」は共産党独裁の危険性がある

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 日本共産党規約3条で規定される、党内での派閥や分派を禁止する「民主集中制」とは、レーニンが確立した「前衛党論」であり、労働者階級を指導する中央集権化された職業革命家集団の戦闘的組織原則のことである。レーニンは、「民主集中制」について、「社会主義革命を遂行するために、革命党は組織の民主主義的原則よりも中央集権的な一枚岩の単一の意思と鉄の規律に基づく少数精鋭の秘密組織でなければならない」(レーニン著「何をなすべきか?」レーニン全集第5巻483頁~486頁。512頁~518頁。大月書店)旨を述べている。

 このような「民主集中制」は、個人は組織に下級は上級に無条件に従ういわば軍隊組織のようなものである。司令部たる党中央が全国の党組織を支配できるのであり、その本質は「独裁制」と言えよう。革命組織の組織原則としては極めて合理的且つ有効であり、とりわけ「暴力革命」を目指す組織としては、これ以上に有効な組織原則はない。なぜなら「暴力革命」は内乱であり、その中で革命組織は軍隊でなければならないからである。(立花隆著「日本共産党の研究上」22頁~26頁。講談社)このように、「民主集中制」は党員による党中央の方針と異なる多様な意見の表明を許容せず、党内での派閥や分派を厳禁し、一枚岩の単一の意思と鉄の規律を絶対視するものである。

 危険なのは、このような「民主集中制」を組織原則とする日本共産党が将来日本で政権を獲得した場合である。その場合に懸念されるのは、共産党に反対する国民の少数意見や反対意見が、一枚岩の単一の意思と鉄の規律による「民主集中制」の原則から許容されず圧殺される「共産党独裁」の危険性である。1977年には共産党員の田口富久治名古屋大学教授も共産党に対し同様の問題提起をした。同教授は「分派の禁止には賛成であるが、その代わりに少数意見の尊重など党内民主主義を保障しなければ先進国では国民の納得が得られず、多数者革命は実現できない」(田口富久治著「多数者革命と前衛党組織論」<現代と思想>第29号1977年)と主張した。しかし、当時の共産党不破哲三書記局長から「前衛党の規律を未来社会の政治構造と同一視するもの」(不破哲三著「続・科学的社会主義研究」51頁。1979年新日本出版社)と批判され離党した。当時の共産党宮本顕治委員長も「民主集中制」に関し「党内のルールを社会に押し付けようというものでは絶対ない」(同書45頁)と批判した。
しかし、実際に日本共産党が政権を獲得した場合には、そのような保証はないと言えよう。なぜなら、旧ソ連のスターリン政権による大量粛清、中国の習近平政権への異常な権力集中、カンボジアのポルポト政権による大量虐殺、北朝鮮の金正恩政権による公開処刑などを見れば、いずれも共産党(労働党)に反対する国民の少数意見や政権批判を一切認めない「共産党独裁」であり、鉄の規律である「民主集中制」の原則が、単に共産党内のみならず、国民全般にも広範囲に適用されていることが明らかだからである。

 戦後日本共産党の歴史を見ると、野坂参三、志賀義雄、袴田里見、中野重治、神山茂夫、鈴木市蔵などの党幹部や、野間宏、佐多稲子、安部公房、出隆、古在由重などの著名な作家、哲学者たちも「除名」されている。数年前の有力党員に対する「除名」も記憶に新しい。「除名」の理由は、党中央の方針に異を唱えた「党規律違反」が多い。スターリン時代のソ連ならば、これらの人々は「除名」だけでは済まず「反党・反革命分子」として「粛清」(処刑)されていたことであろう。このように、党員による党中央の方針と異なる多様な意見の表明や行動を許容せず、派閥や分派を厳禁するレーニン流の「民主集中制」を今も組織原則とする日本共産党は、政治的意見の多様性を認め合う日本のような議会制民主主義社会とは本質的に相いれない異質の政党であると言えよう。
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