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2025-09-29 14:15

共産主義を終焉させた「ソ連崩壊」

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 共産主義とは、資本主義社会における資本家階級による労働者階級への搾取を廃止し、「能力に応じて働き必要に応じて受け取る」(マルクス「ゴーダ綱領批判」世界思想教養全集11巻131頁。河出書房新社)平等な社会を実現するために、暴力革命によって資本家階級から生産手段を収奪して国有化し、国家権力による計画経済を行う社会体制である。共産主義のイデオロギーは「マルクス・レーニン主義」(科学的社会主義)と称され、マルクス、エンゲルス、レーニンによって確立された。マルクス「資本論」「ゴーダ綱領批判」マルクス・エンゲルス「共産党宣言」レーニン「国家と革命」「何をなすべきか」が代表的著作である。
 
 共産主義社会では、商品交換は行われないから、資本主義社会における労働力の商品化であるマルクスの「商品の価値はその商品を生産するために必要な社会的必要労働時間によって決定される」(「資本論」第1巻向坂逸郎訳50~51頁。岩波書店)という「価値法則」は適用されない(「ゴーダ綱領批判」129頁)。共産主義の核心は、資本家階級を絶滅するための暴力革命とプロレタリアート独裁(共産党独裁)並びに民主集中制である。暴力革命について、マルクス・エンゲルスは「一切の社会秩序は暴力によってのみ転覆される」(「共産党宣言」世界思想教養全集11巻66頁。河出書房新社)と言っている。プロレタリアート独裁について、レーニンは「プロレタリアート独裁は資本家の反抗を暴力で打ち砕き粉砕する。暴力のあるところ自由も民主主義もない」(「国家と革命」世界の名著52巻555頁。中央公論社)と言っている。その実態は共産党独裁である。民主集中制について、レーニンは「革命遂行には職業革命家による中央集権化された戦闘組織が不可欠である」(「何をなすべきか」レーニン全集5巻514頁。大月書店)と言っている。したがって、民主集中制は職業革命家による暴力革命を目的とする概念である。

 レーニンは「労農同盟」を構築したボリシェビキによる1917年の10月革命によって帝政ロシア政府を打倒し、史上初の労働者階級による社会主義政権であるソビエト連邦(ソ連)を樹立した。レーニン死後はスターリンによる5か年計画に基づく急速な重工業化と農業集団化により、1930年代の「資本主義の全般的危機」の時代にも経済成長を成し遂げ、第二次大戦後は米国と並ぶ超大国に発展させた。ソ連は1957年10月4日世界初の人工衛星打ち上げに成功し、また、8時間労働制、有給休暇、女性の権利、医療・教育無償化など評価すべき点もあった。その反面、スターリンの大粛清、人権抑圧、強制収容所等、負の遺産を残した。1991年のソ連崩壊の要因については、諸説があるが、計画経済の非効率・官僚主義による生産性低下とそれに伴う経済停滞、国有企業間の競争原理の欠如による技術革新の遅れ、米国との軍拡競争による経済的負担増大、国民の民主化要求等様々な要因が考えられる。「利潤原理」も導入されたが成果は限定的であった。然し、最も重要な要因はソ連共産党ゴルバチョフ書記長が進めたペレストロイカ(政治改革)により「言論の自由」が拡大し、国民に共産党政権に対する政権批判が可能となったことが極めて重要な政治的要因であると思料される。だからこそ中国共産党政権はこのことを教訓とし、現在も国民に対してきびしい言論統制を続けているのである。
 
 1991年の「ソ連崩壊」の世界史的影響は誠に甚大であった。ウクライナやバルト3国をはじめ多くのソ連邦構成国や従属国が独立した。ソ連自身も共産主義から資本主義に転換した。最も大きな影響は、社会主義、共産主義に対する失望であろう。マルクス・エンゲルス・レーニンが確立した共産主義のイデオロギーは、20世紀の世界を席巻した。しかし、ソ連の崩壊により社会主義、共産主義に対する理論的、政治的、経済的、社会的評価が失墜した。なぜなら、ソ連崩壊により、ソ連の政治体制の欠陥・恐怖が一層暴露されたからである。共産党独裁による「基本的人権抑圧」「言論の自由抑圧」「市民的自由抑圧」「共産党官僚の強権支配」「秘密警察」「密告」「粛清」「強制収容所」「処刑」「非効率な指令型計画経済」「経済停滞」等である。これらは、世界各国の広範な国民に共産主義への失望・恐怖を抱かせたであろう。ソ連崩壊によって、イタリア共産党、フランス共産党、イギリス共産党、スウェーデン共産党などはプロレタリアート独裁を放棄した。現在の西欧共産党や日本共産党の著しい退潮も上記のソ連政治体制の欠陥・恐怖と無関係ではないであろう。その意味で「ソ連崩壊」は共産主義を終焉させたと言っても過言ではないであろう。
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