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2025-07-10 01:20

ウクライナ戦争は米露の代理戦争である

村上 裕康 ITコンサルタント
 2022年2月24日、ロシア軍は北部国境から首都キーウの制圧を目指して侵攻し、東部ではルガンスク州およびドネツクの2州の制圧を目指して侵攻した。北東部国境から侵攻したロシア軍は、侵攻を開始して間もなく、チェルノブイリ原子力発電所、アントノフ空港を占拠してウクライナの首都キエフに迫った。また、また南部では侵攻から間もなくマウリポリ、ザポリージャ州、ヘルソン州を制圧した。

 ロシアはなぜウクライナを軍事侵攻したのか?西側メディアの中にはプーチンの気が狂ったのではないかという報道さえあった。プーチンは親ロ派が占拠するウクライナ東部のロシア系住民はウクライナ政府に虐げられていると主張する。彼らを保護するためにウクライナに侵攻したのであり、正当防衛であるとした。また、NATO加盟を目指すウクライナのゼレンスキー政権は、ロシアの脅威であるとした。ロシアにとって、ウクライナにNATOのミサイルが配備されることは脅威なのである。

 「ルガンスク人民共和国」および「ドネツク人民共和国」は2014年のマイダン革命で、ウクライナ東部の親ロシア派分離主義者がウクライナから一方的な独立を宣言して設立した人民共和国である。プーチンは、ウクライナに侵攻する直前の2月21日に両国の独立を承認した。プーチンは、両国の要請に応じてクライナの「非武装化」と「非ナチス化」を実現するために、「特別軍事作戦」を宣言してウクライナへの侵攻を開始した。「特別軍事作戦」の宣言にあるウクライナの「非武装化」は、NATO加盟を目指すウクライナの脅威を排除することを意味する。また「非ナチス化」は、ロシアと敵対する親欧米の過激なウクライナ民族主義グループを排除し、親露政権を樹立することを意味する。

 2022年3月2日、ロシアの軍事侵攻を巡って国連総会の緊急特別会合が開催され、ロシアに軍事侵攻の即時停止を求める決議案が141か国の圧倒的賛成多数で採択された。193か国の国連加盟国のうち、反対票を投じたのは、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮など5か国のみで中国やインドなど合わせて35か国が棄権した。

 中国やインドは、ロシアの軍事侵攻の即時停止を求める国連の決議案に棄権票を投じた。南アフリカは、「ウクライナ紛争は覇権をめぐる大国間の代理戦争である。」とし「覇権争いをする大国とは一線を画す非同盟運動の立場をとる。」として棄権票を投じた。

 北東国境を越えてウクライナに侵攻したロシア軍がキエフに迫る中、2月28日にウクライナとロシア両国の代表団は第一回目の停戦協議を行った。両国の立場は大きく異なり、ロシアはウクライナの非武装化や中立化に加え、現政権の責任追及などを要求してきた。トルコの仲介で、3月10日アンタルヤでの外相会合に続き、3月29日イスタンブールで両国の代表団が停戦協議を続けた。協議の内容に調整を加えて4月15日のイスタンブール・条約草案にまとめた。条約草案では、ウクライナの中立化およびNATO加盟の断念、軍備の制限、クリミア半島の帰属などが記されている。しかし、軍備の制限およびクリミア半島の帰属については合意に至っていないといわれている。

 欧米をはじめとする西側諸国は、プーチンの行動はウクライナの主権を侵害するものであると非難し、米国を中心にウクライナの支援で結束した。米議会は、大型歳出法案でウクライナに136億ドル(1兆6000億円)の軍事・人道支援をする大型歳出法案を通過させた。米国は、2022年の1月から1年間で731億ユーロ(10兆円)をウクライナの支援に提供し、全体の支援額の約半額を占めている。EU(ヨーロッパ連合)は350億ユーロ(5兆円)を提供している。

 また、ロシアの軍事侵攻に対して、欧米諸国や日本は、ロシアからの石油・ガスの輸入禁止、SWIFT(国際的な決済システム)からの排除、資産凍結、ハイテク製品の禁輸など大規模な経済制裁を課した。

 3月になってウクライナ軍は善戦し、キエフ周辺に迫ったロシア軍は後退という報道もされるようになった。キエフ周辺のロシア軍は大幅に縮小して北東部国境から撤退するが、東部のドンバスの攻撃に軍隊を再編成した。

 4月9日、イギリスのジョンソン首相はキーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ジョンソン首相は1億ポンド(160億円)の軍事支援を追加すると共に、装甲車やミサイルを提供するとした。ジョンソン首相は西側諸国の連帯を呼びかけた。

 2022年3月、イスタンブール停戦交渉が行われる中で、米国がウクライナの全面支援を打ち出したのは、ウクライナに対して停戦案を受け入れないよう促したといわれている。バイデン大統領は「アメリカ軍を派遣しない考えに変わりはない」としながら、ウクライナ戦争を「米露の代理戦争」と認識していた。

 実際、米国のロイド・オースティン米国防長官は、4月にキエフを訪問しゼレンスキー大統領と会談した際の記者会見で、ウクライナの支援を強調し「ロシアの弱体化」を望むと発言した。その後、米国は高性能兵器や情報支援の提供を続けて、戦争は膠着し、続消耗戦の様相を呈した。米国の戦略はウクライナ戦争でロシアの軍事力・経済力・国際的影響力を削ぐことにあり、地政学的な再編ともいえる戦略である。

 ネオコン議員をはじめとする米国民はウクライナ戦争で軍需が活性化され。軍需産業の、軍事技術の開発にもつながることから、ウクライナの支援に賛同した。欧州にとってウクライナに侵攻したロシアは安全保障上の脅威である。ロシアの脅威に対して、NATOは直接的に関与することを避けながらウクライナの支援を打ち出した。欧州にとって、ウクライナ戦争は「EUとロシアの代理戦争」である。ロシアを弱体化させ、消耗させることが欧州にとっての利益である。

 2022年のイスタンブールにおけるウクライナとロシアの停戦協議は中止された。米国と欧州はウクライナに戦争を続けることをウクライナに促したといわれている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、米露代理戦争の大将として担ぎ上げられ、ロシアのプーチンと戦かった。戦力ではロシアが勝る。欧米連合はウクライナに高性能兵器と情報支援を提供しながら、前線で戦うのは勇敢なウクライナ兵である。

 戦線でウクライナが追い込まれると高性能な兵器を供給し、優位になるとウクライナが勝ち過ぎないように注意を払った。ロシアは核兵器を保有する核大国である。ロシアが核兵器に手を出すようなところまで追い詰めることがないように注意を払ったのである。戦闘は膠着状態になった。2022年にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、3年半が経過した。

 2025年にトランプが大統領に就任すると、戦争の早期終結を訴え、ウクライナに対する軍事支援を縮小した。トランプ政権のマルコ・ルビオ国務長官はウクライナ戦争は米国とロシアの代理戦争であるという見解を示した。ルビオ長官は「率直に言って、これは核大国間の代理戦争であり、ウクライナを支援する米国とロシアの代理戦争だ。これを終わらせる必要がある。」と述べた。ウクライナに対する支援の縮小で、ロシアの攻勢が目立っている。

 米シンクタンクの戦略国際問題研究所CSCIの評価によると、ロシア兵の死傷者数は100万人、ウクライナ側の死傷者数は50万人程度と推計している。ウクライナとロシア両軍の死傷者数を150万人と推計している。今もなお戦闘は続き、毎日1200人以上の死傷者を出している。

 ドイツのキール研究所によると米国が支出した支援は1140億ユーロ(18兆円)と評価している。同じくキール研究所によると、米国を除く西側諸国は2670億ユーロ(43兆円)を支出したと評価している。米国の支出は、西側諸国の約4割に相当する。数字に違いはあるが、トランプ大統領は、米国のウクライナ支援の総額は3500億ドル(52兆円)に上るとした。
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