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2007-12-05 19:42

国際金融の混乱と国家資産基金(SWF)

坂本正弘  日本戦略研究フォーラム副理事長
 最近の世界経済の注目は米国の住宅問題に発するサブプライム・ローン問題と株の下落、ドルの下落である。今後も厳しい情勢の見通しだが、国際金融不安やドル体制の凋落に向かうとの見方があるが、どうか。1970年代初めの金ドル体制の停止以来いくつかの金融危機があり、第一次石油危機にはSDR登場や金復帰の議論もあったが、これまでの国際金融の激動はむしろ、ドル体制を強化してきたといえる。巨大なオイル・マネーのリサイクル過程は、ドルを基礎とする国際金融を強化した。プラザ合意後の変動時にも、ドルは円やマルクの挑戦を退け、ドル本位の浸透を結果させた。現在、ドルは公的準備通貨の65%(EUROは25%)を占め、決済通貨としても圧倒的である。過去の例から見て、現在の国際金融の混乱も結局はドル本位の浸透をもたらす、と考えるのは楽観的過ぎるだろうか。

 過去に比較すると、現在の特色の第一は、米国の経常赤字の巨大さで、ドルの信認が問題になっている。しかし、米国の累積経常赤字は資産勘定による調整があり、さほど増大していない。現状は証券化などの金融工学への過信が調整される局面といえるが、米国資本市場への資本流入は巨大であり、これが更に海外へ輸出され、世界経済の潤滑油となっている。この状況は1980年代以来続き、世界経済にビルトインされ、ドル体制を支持している。特色の第二は中国・インドなどの新興成長国や産油国が巨大な黒字を背景に、輸入を拡大し、先進国以上に世界景気を支え、しかも国際金融への大きな資金供給者となっていることである。巨大な人口・労働力を持ち、世界貿易と資本循環を牽引する状況は、世界経済の主導権が先進国からこれら諸国へと移行しつつある観すら呈する。特色の第三は、これらの諸国が金余りを背景に、巨額な国家資産基金(SWF)を作りだしていることである。中国は先ごろ外貨準備運用会社を設立した。中国企業は国営であり、石油事業が典型だが採算を度外視して鉱区を買い付けている。国家資産基金はこの傾向を強めるであろう。その目的は戦略産業の支配など極めて政治的な場合がありうる。日本企業もその先端技術を狙った買収の対象となろう。

 私有財産を基礎とする市場経済の中に、国家資産を基金とする異質の主体が政治的目的を持って参入し、採算度外視の取引を行うとすれば、市場経済は大きなゆがみを受けざるを得ない。また中国の援助は、アフリカが典型だが、その決定が迅速で、多額で、多くの中国人労働者を連れてゆくため、実施も急速である。中国の政策決定過程は短期であり、実施は迅速である。しかもその対象国はスーダン、ジンバブエ、ミヤンマーなど、札付きの国が多い。その長期的効果には疑問があるが、世銀やDAC方式の援助への大きな挑戦である。世界経済は当面、金融面での調整がある。ドルの役割は減少しないが、西欧方式、自由通商体制は中国などから強い挑戦をうけている。とはいえ、これら諸国はいずれも国内に大きな問題を抱えており、どの国の通貨も国際通貨になれる状況でないことも明らかである。
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