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2007-12-05 12:44

着々と進む中国海軍の「外洋海軍」化

秋元一峰  海洋問題研究者、元海将補
 本年4月24日に「中国海軍が空母を保有する日を考えよう」(投稿302号)、6月19日に「再び、中国海軍が空母を保有する日を考えよう」(投稿340号)、8月14日に「三度、中国海軍が空母を保有する日を考える」(投稿376号)、また10月9日に「とうとう大西洋にまで乗り出した中国海軍艦艇」(投稿429号)と題し、本欄に中国海軍の拡張を危惧する拙文を投稿してきた。上記「とうとう大西洋にまで乗り出した中国海軍」では、中国海軍が七つの海を制覇したことを伝えた。

 同様のことを、シンガポール紙『The Straits Times』(2007年10月18日号)が「中国海軍――伸びる行動範囲」とのタイトルで、「中国海軍のミサイル駆逐艦「広州」と補給艦「微山湖」が7月24日、海南省を出港し、87日間に亘る欧州巡航を実施した。両艦はロシアのサンクトペテルブルグに寄港した後、イギリスのポーツマス、スペインのカディス、フランスのトゥーロンを順次訪問すると共に捜索救難、通信連絡および陣形運動などの共同演習を実施した。中国海軍による北大西洋での初めての演習であった。これとは別に、中国海軍のミサイル駆逐艦「哈爾浜」と補給艦「洪沢湖」が9月10日に青島を出港、オーストラリアおよびニュージーランドとの3国間合同海軍演習に参加した。これら親善訪問・演習の一方で、中国海軍は2007年に入ってから南沙諸島周辺海域における演習と哨戒活動を増大させており、7月11日には領海侵犯を理由にベトナム漁船を銃撃している。中国海軍の欧州およびオセアニア巡航そして南シナ海での行動は、地理的に広範な海域で同時に行動できる能力を示すものである。欧州とオセアニアでは、米海軍と通信・運用の面で多くを共有する西側主要国との演習も経験したことになる。中国海軍の一連の行動は、「外洋海軍」への技能と自信を示している」と伝えている。

 まさに、中国海軍が「ブルーウォーター・ネイビー」に変身してしまったことを指摘している。さて、11月21日、中国海軍のミサイル駆逐艦「深圳」が広州の港を出港した。中国海軍による第二次大戦後初めてとなる日本への親善訪問のためである。当艦は海上自衛隊の招待に応じて11月28日から4日間の訪日に臨む。出港の前日20日は、ASEAN+3に参加した福田首相と温首相が会談している。見事な演出と言える。

 さて、本年11月7日、中国はインドネシアとの間で「防衛協力協定」に調印している。中国がASEAN諸国との間で調印した最初の防衛協定であり、「東南アジアにおける重要な戦略的前進」(新華社)となるものと伝えられた。中国は、インドネシアに予てから軍事交流のためのアプローチを続けていた。インドネシアは、エネルギー資源の大部分が経由するマラッカ海峡の沿岸国である。同日、中国はカンボジア海軍に、密輸取締への支援として、哨戒艇7隻、上陸用舟艇1隻、浮きドッグ等を提供している。シアヌークビル港の海軍司令部で行われた引き渡し式で、ティ・バン副首相兼国防相は、「これらの最新装備は、カンボジア海軍の能力強化に、そして我が国の安全と領土保全を護る上で重要な役割を果たす」と謝辞を述べた。日本のマスコミはこれら中国による一連の海軍・外交活動を何故か大きく報じていない。

 「ブルーウォーター・ネイビー」への能力を得た中国が、日本および他のアジア諸国に親善・友好・協力のアプローチを展開している。その海軍には、やがて空母が加わるだろう。なお、戦後初となる中国海軍艦艇の日本訪問を、11月21日の『Herald Tribune』紙は、「Conciliatory Gesture」なる見出しを付けて報じている。これを如何様に捉えるか、政府・マスコミの識見が問われる。
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