国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2025-02-08 16:27

(連載1)USAID(国際開発援助庁)はなぜ狙われるのか

篠田 英朗 東京外国語大学大学院教授
 トランプ政権の肝いり政策の一つであるイーロン・マスク氏を起用した政府効率化省(DOGE)による連邦政府の「無駄な」支出の削減対象として、USAID(国際開発援助庁)全体が標的となった。すでにルビオ国務長官によって、アメリカの対外援助がイスラエル関係の支出を例外として、全世界で90日間停止となっていた。その直後、マスク氏が、USAIDの支出記録を全て公にするという措置をとった。加えて、1万人とされるUSAIDの全世界の職員が、休職対象とされた。大幅な予算削減と、人員削減が行われることは必至だろう。
 
 同時並行で、CIA(中央情報局)の全職員が早期退職の促進対象になったと報じられている。これらの措置は、冷戦勃発以降のアメリカの対外政策の仕組みを根本から見直す意図を持ったものだと言ってよい。マスク氏は、厳密には連邦政府機構の一部ではないが、連邦政府からの資金提供によって運営されているNED(全米民主主義基金)にも、改革のメスを入れることを宣言している。NEDは、レーガン政権時に、世界に(アメリカ流の)民主主義を広げるために設立された政府系の財団だ。冷戦終焉直後には、東欧革命やソ連の崩壊を促進したと信じられ、戦争を回避しながら「西側」の勝利を導いた組織として、むしろ賞賛の対象であった。
 
 これらの冷戦終焉直後の「自由民主主義の勝利」の立役者たちは、現在のトランプ政権では「ディープ・ステート」として、煙たがられている。支出に「無駄」があるかどうかを問う以前に、イデオロギー的な立ち位置に問題がある、とみなされているのである。そもそも支出の「無駄」についても、価値観の含まれた審査をへなければ認定できない領域は、存在する。トランプ政権は、そのような領域も「常識の革命」(トランプ氏の就任演説で用いられた概念)で、一刀両断の審査を行おうとしている。
 
 マスク氏のチームは、USAIDの予算が、民主党系のインフルエンサーの「懐」にも流れたのではないか、という視線を持って、「キックバック」「リベート」の要素を、暴き出そうともしているようである。これは「汚職」に該当する話であり、一つの別次元の事項として、精査されるべきであろう。政策的に大きな論点となるのは、「自由民主主義の勝利」=「ディープ・ステート」の思想にもとづいた行動の評価である。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム