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2025-02-10 13:30

日米関係の「黄金時代」可能か?

鍋嶋 敬三 評論家
 石破茂首相がドナルド・トランプ米大統領と2月7日、ホワイトハウスで首脳会談を開き個人的な信頼関係を築くことに成功した。予測不能で何を言い出すか分からないトランプ氏に対し、政策の筋を通したい石破氏の取り合わせが不安視されていたが、会談後の記者会見でトランプ氏が「石破氏は非常に強い男」と敬意を表し、不安は杞憂に終わった。二人のケミストリー(相性)が合ったようだ。日頃は政権批判に終始する野党からも(信頼関係構築で)「一定の成果を挙げた」(野田佳彦立憲民主党代表)との評価も得た。

 首脳会談の前に立ちはだかったのが、日本製鉄(日鉄)による米鉄鋼大手USスティールの買収契約である。大統領選挙の争点の一つになり政治問題化した。バイデン前大統領が退任直前に買収禁止命令を出し、個別企業の買収問題が安全保障協力を含めた日米の同盟協調体制を揺るがす恐れが強まっていた。日米ともに政権発足後間もない時期にあって進路に埋め込まれた地雷のような取り扱いが危険な問題だった。トランプ大統領は会談後の記者会見で「買収ではなく多額の投資を行うことで合意」と発表、日鉄幹部と近く会談する見通しまで述べた。石破首相も「日本が投資することで大統領と認識を共有した大きな成果だ」と述べ、先行きは不透明ながらも局面打開に動き出した。日米間に刺さった大きなとげを抜くために政府当局者や業界関係者が入念な準備を進めてきたことがうかがわれる。

 安全保障政策では、「自由で開かれたインド太平洋およびそれを超えた地域」の平和、安全、繁栄の礎としての日米同盟の意義付けを共同声明の冒頭にうたった。「米国第一主義」のトランプ大統領が孤立主義に走らないように歯止めをかける大きな意味がある。米国の核戦力を含む拡大抑止力の強化、尖閣諸島への日米安全保障条約第5条の適用の再確認は従来通りだが、日本の抜本的防衛力強化を2027年度以降も日本が約束するなどサイバー防衛の分野も含めた安保協力拡大が日米首脳間の約束になった。インド太平洋地域における日米連携では、バイデン前政権以来の日米豪印(クアッド)、日米韓、日米豪、日米比など「多層的な共同歩調」による協力推進もトランプ政権で継続することが約束された。

 米政権が「第一の競争相手」とする中国に対しては東シナ海、南シナ海での力や威圧による挑発活動に強く反対し、台湾海峡の平和と安定の維持を再確認したほか「国際機関への台湾の意味ある参加」への支持も表明した。習近平国家主席との首脳会談を予定するトランプ氏にとっても「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指す日本との連携強化やそれに基づいた多国間の協調体制は対中戦略推進の上での強みとして利益は大きいはずである。トランプ政権が「米国第一主義」で世界保健機関(WHO)など国際機構から離脱する政策を継続するほど世界秩序の乱れが加速し、それに乗じて中国、ロシアやイランなど反米諸国がグローバルサウスへの攻勢を強めている。そのような流れにならないよう日本には「トランプのアメリカ」に国際協調を強く働きかける同盟国としての責任がある。そのような努力を欠いたままでは「世界に平和と繁栄をもたらす、日米関係の新たな黄金時代」(共同声明)の実現は絵に描いた餅に終わるだろう。
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