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2025-01-20 07:17

石破首相はトランプ氏にズバリ直言を

鍋嶋 敬三 評論家
 ドナルド・トランプ大統領が1月20日就任して第2期政権が発足する。昨秋の選挙でホワイトハウス、議会の上下両院を共和党が押さえる「トリプルレッド」で「米国第一主義」の政策を推進する体制は整った。ジョー・バイデン民主党政権の4年間で世界の動乱は3年目に入るロシアのウクライナ戦争、中国の軍備大増強、北朝鮮の核戦力の飛躍的強化、ガザ紛争やシリアのアサド独裁政権の崩壊など一層激しさを増した。「ディール(取引)」を経済、外交戦略の重要な手立てとして使うトランプ大統領の政策が世界的規模で安全保障、貿易、経済関係に「不確実性」をもたらす危険は無視できない。就任前からデンマークの自治領グリーンランドの買収、中米パナマ運河の管理権要求、カナダを51番目の州に編入ーなど外国の国家主権を無視する発言が次々と発せられている。トランプ発言のその先には貿易や投資で経済的利益を引き出す思惑が働いているのが常である。どのような結末になるかは取引次第というわけで、同盟国であっても要求を高く吹っかけて米国に有利な「落としどころ」を探るやり方は変わらないだろう。これが西側の結束を緩める結果を招いてきた。

 第1期政権の半ばに当たる2018年にロンドンの国際戦略研究所(IISS)が年次報告書で、第2次大戦後米国の主導で形成された「リベラルな国際秩序」の内容として①ルールに基づく秩序、②米国を安全保障の保証人とする同盟関係、③自由な諸価値の拡大ーを指摘した。この報告が世界に衝撃を与えたのは、ロシアや中国よりも「トランプ大統領の米国こそ現在の秩序に対する最大の脅威になり得る」と規定したことである。「米国はリベラルな秩序を拒絶している」と最大限の強い言葉でトランプ政権の対外政策を非難した。トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費が少ないことに非を鳴らし、安全保障や経済関係の摩擦が絶えなかったことの反映であるが、価値観では一体とされてきた欧州からのトランプ不信の強烈さに驚かされたものである。トランプ氏はウクライナ停戦の仲介に意欲を示す一方、NATO諸国の国防費を今度は5%に引き上げるよう要求している。第1期政権では日本や韓国にも米軍駐留費分担金の大幅増額の要求を突きつけてきたのだった。

 トランプ大統領の関心が今のところは対中国経済関係、ウクライナ戦争処理やロシアに向けられ、まだアジア太平洋戦略は示されていない。安倍晋三政権以降、菅義偉、岸田文雄政権と引き継がれ深化を遂げてきた「アジア太平洋戦略」は第1期トランプ、バイデン政権でも支持されてきた。特に日本の欧州やNATOとの連携強化は米国の対中国、ロシア、北朝鮮戦略にとっても大きな支えになった。日米経済関係でも主要国の対米投資額では日本が2019年以降、5年連続で第1位(JETRO調べ)を占め、米国の経済発展に大きく貢献している。日本製鉄によるUSスティール買収計画はバイデン政権の政治的思惑による拒否で先送りされたが、買収の完了が米国経済にとっても利益をもたらすことを石破茂首相はトランプ氏に強く説得しなければならない。

 日米共に安全保障上の最大の脅威は中国の軍事的膨張である。その先に「台湾危機」もある。日米同盟強化の戦略を揺るがすべきでないことは明らかだ。北朝鮮の核戦略強化、韓国政治の危機、台湾包囲の中国軍事戦略などアジアの危機はますます強まる。「米国第一主義」がどのような形を取るのかは未知数だが、日本は2年前の「安全保障3文書」の策定に基づいて防衛力の強化を急ピッチで進めてきた。在日米軍基地、横須賀を母港とする米海軍最強の第7艦隊などが米国の対中国、北朝鮮への強力な抑止力となっており日本による経費分担がそれを裏付けている。石破茂首相はいずれ開かれる日米首脳会談の際には日本が果たしてきた同盟や世界への貢献について、独特の回りくどい言い方でなく、確信を持って明確な言葉で語るべきだ。自信あふれる指導者はズバリ直言する相手の言葉を素直に受け入れるものである。
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