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2024-12-16 10:33

『毛沢東思想』と現代中国

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 『毛沢東思想』とは中国共産党の革命思想であり、マルクスとレーニンが確立した共産主義(マルクス・レーニン主義)を理論的指針とし、これを農耕社会であった中国の実情に適応させた農民中心の革命思想である(毛沢東著『民族戦争における中国共産党の地位』毛沢東選集2巻新日本出版社256頁)。現行の中華人民共和国憲法序言にも『毛沢東思想』が国家及び全人民の指導理念と規定されている。具体的には、『毛沢東思想』は「鉄砲から政権が生まれる」(毛沢東著『戦争と戦略の問題』毛沢東選集2巻274頁)という「暴力革命論」と「軍隊は民衆と一体になれば無敵である」(毛沢東著『持久戦について』毛沢東選集2巻224頁)という「人民戦争論」からなるが、平等を重視する人民民主主義思想が根底にある。

 『毛沢東思想』は1949年の中国社会主義革命成功の理論的実践的原動力であったことは明らかであり、現在の習近平政権においても中国共産党の指導理念となっている。対外的にも、『毛沢東思想』の影響力は大きく、民主カンボジアのポルポト政権、戦後武装闘争期の日本共産党、新左翼の連合赤軍などにも理論的実践的影響を与えた。

 しかし、「法の支配」や「議会制民主主義」が発達した欧米・日本などの先進資本主義諸国では、『毛沢東思想』の影響力は限定的である。なぜなら、『毛沢東思想』の核心である「暴力革命論」と「人民戦争論」は、自由と民主主義制度が定着した先進資本主義諸国の実情とは適合せず乖離しているからである。そのため、日本共産党では1955年の「六全協」で徳田派による1951年から2年間の武装闘争路線を極左冒険主義と総括し日本の情勢に適合しない誤りであるとして、議会を重視する平和革命路線に転換した(日本共産党中央委員会著『日本共産党の70年』上巻新日本出版社244頁)。また、1970年代の連合赤軍の武装闘争路線も「敗退」と評価されている(植垣康博著『連合赤軍27年目の証言』彩流社125~126頁)。ただし、民主主義が未発達で経済発展が遅れた国では、暴力革命と人民戦争を核心とする『毛沢東思想』は有効性がある。

 現代中国においても毛沢東は中国革命を成功に導いた最高指導者として高い功績が認められている。また、毛沢東による革命後の社会主義建設についても、農村における「土地改革」、安全保障面での「中国人民解放軍」の強化、「核保有」などは評価されているとみられる。半面、大躍進政策や文化大革命などへの批判はあろうが、鄧小平の「改革開放」後においてもトータルとしての毛沢東への評価は不変である。『毛沢東思想』は、先進資本主義諸国にとってのバックボーンが『自由民主主義』であるように、今も中国にとってのバックボーンとなっており、中国を社会主義国家たらしめる根源的思想である。中国は『毛沢東思想』で理論武装しているからこそ軍事力・経済力を含め国家としての強靭性を有するのである。

 さらに、習近平国家主席が提唱する「偉大な中華民族の復興」も、毛沢東の「中華民族は光栄ある革命的伝統と優秀な歴史的遺産を受け継いだ偉大な民族国家である」(毛沢東著『中国革命と中国共産党』毛沢東選集2巻378頁)を継承したものである。中国が国家のバックボーンである『毛沢東思想』で理論武装し、中国国民がこれを尊重擁護し団結する限り、中国の衰退はないと思われる。日本としては今後もこのことを念頭に置き対応すべきである。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」である。
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