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2024-12-07 11:20

「企業献金禁止」は共産党の「革命戦略」

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 共産党は機関紙『赤旗』で自民党のいわゆる「裏金問題」すなわちパーティ収入に関する政治資金収支報告書不記載問題を暴露し徹底的に追及した。その結果、自民党は「政治と金」の問題で国民の強い批判を受け、今般の総選挙で大敗し過半数を失った。共産党の「裏金問題」追求の目的は自公政権を過半数割れに追い込み、政権交代による「野党連合政権」の樹立である。首相指名選挙でも共産党は野党である立憲民主党の野田佳彦代表に投票している。

 共産党は「裏金問題」に関連して「企業献金」の全面禁止を主張し、11月28日に「企業・団体献金全面禁止法案」を参議院に提出した(『赤旗』11月29日)。その理由は「選挙権のない営利を目的とする企業が自民党に多額の献金をするのは見返りを求めるためであり、金権腐敗政治の温床となっており、多額の献金で国の政策をゆがめることは国民の参政権の侵害である。賄賂である企業献金は禁止しなければならない。原発、軍需、マイナンバー、大型開発などの関連企業は自民党に多額の政治献金を行い、公共発注を受け利益還元されている。消費税減税を拒否する背景には、多額の政治献金をする財界の要求による法人税の減税がある。」(『赤旗』12月1日、12月2日、12月7日)などというものである。

 「企業献金」の合法性・合憲性については有名な昭和45年(1970年)「八幡製鉄所政治献金事件最高裁大法廷判決」がある。事案は八幡製鉄所の代表取締役2名による自民党への350万円の政治献金の違法性・違憲性が争われた株主代表訴訟である。判決は下記の理由で、「企業献金」の合法性・合憲性を認めており、確定した最高裁判例となっている。

(1)企業は一定の営利事業を営むが、納税の義務を負い、憲法上の権利義務を有し、社会を構成する社会的実在である。
(2)社会的実在である企業は、災害救助金の寄付、地域社会への金銭的奉仕、各種福祉事業への資金協力など、無償の社会奉仕貢献活動もしている。これらは株主の利益を害するものではない。
(3)企業には参政権はないが、納税の義務を負っているから、納税者の立場からの国の政策に対する意見表明を禁止する理由はない。
(4)企業にも憲法上の権利義務規定が適用されるから、個人と同様に企業は国や政党の特定の政策を支持推進し、または反対するなどの政治的行為をする自由を有する。政治献金もその一環であり、国民の参政権を侵害するものではない。

 企業は、経済活動を行い、国民に財・サービスを提供し、国民の雇用を守り、納税を行い、社会奉仕活動を行うなど、資本主義社会における極めて重要な社会的実在である。企業は国の成長発展と国民生活の向上にとって必要不可欠な存在である。このような企業の重要性を考えれば、企業にも政治献金を含む政治的行為の自由が認められるとの本件最高裁大法廷判例は極めて適正妥当であると言えよう。そのため、50年が経過した現在に至るも判例の変更はないのである。

 共産党は党綱領で「社会主義・共産主義社会の実現」を目指す革命政党である。党綱領で共産党は「自民党政府は大企業・財界を代弁して、大企業の利益優先の経済・財政政策を続けてきた」と規定している。したがって、共産党の目標は、自民党政府の打倒であり、党綱領で規定する「民主連合政府」の樹立である。そのためには、大企業・財界からの自民党に対する「企業献金」を前面禁止し、自民党を財政面から弱体化する必要がある。共産党の「企業献金全面禁止」の目的はまさに自民党の弱体化による政権奪取すなわち『革命戦略』に他ならないのである。共産党は、機関紙『赤旗』で企業による自民党への多額の政治献金は見返りを求める賄賂であり、国の政策をゆがめ、国民の参政権を侵害すると断定する(『赤旗』12月2日)。しかし、上記最高裁判例によれば、企業は無償の社会奉仕貢献活動もしており、納税義務を負う社会的実在として、企業にも憲法上の権利義務規定が適用され政府や政党の特定の政策を支持推進し、または反対する政治的行為の自由があり、その一環としての政治献金の自由も認めているから、政治献金について参政権侵害などの違法性や違憲性はない。同判例は、政治献金の賄賂性、政策のゆがみ、参政権侵害を一切認めていない。「政策のゆがみ」の有無は最終的には国民が選挙で審判すべき事柄である。
 
 共産党は、関連企業が多額の献金で公共発注を受け利益還元を得ているとか、大企業や財界による多額の政治献金により大企業減税が行われたと断定する(『赤旗』12月7日)。しかし、政治献金と利益還元との因果関係を証明する証拠はない。また、政治献金と大企業減税との因果関係を証明する証拠もない。大企業減税は政治献金の有無にかかわらず、日本企業の国際競争力強化のためにも必要なのである。

 さらに、共産党は、軍事費増額は多額の政治献金をした特定の軍需産業に利益をもたらすと断定する(『赤旗』12月7日)。しかし、ロシアのウクライナ侵略や台湾有事、北朝鮮の核ミサイル・露朝軍事同盟など、近時の安全保障環境の悪化により国家と国民を守る防衛力強化・防衛費増額が不可欠であることは、野党を含む多くの政党や国民も支持しているのである。共産党が、 前記のとおり党綱領で敵視する大企業や財界は、資本主義経済体制の維持存続を前提とする存在である。社会主義革命が起これば、生産手段は社会化されるからである。そうだとすれば、上記最高裁判例が判示するように、特定の政党の特定の政策を支持推進するための政治献金も自由であるから、大企業や財界には利益誘導や利益還元とは全く無関係に、ひたすら資本主義経済体制を維持存続する自民党に政治献金をする十分な合理性があると言えよう。
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