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2024-10-31 07:35

政局不安定化ー短命政権の再現か?

鍋嶋 敬三 評論家
 10月27日の衆院総選挙で自民、公明の与党が単独過半数(233議席)を割った。旧民主党政権への交代が起きた2009年以来15年ぶりである。石破茂首相は政権維持のため国民民主党を相手に重要政策ごとに合意する「部分連合」を目指す構えだが、与野党が対立する戦略的政策の遂行は困難がつきまとう。政局が不安定化するのは必至である。2025年夏の参院選挙で与党の過半数割れも想定され、再び短命政権の時代に回帰することや野党への政権交代もあり得る情勢だ。首相は敗北の記者会見(10月28日)で「身内の論理や理屈と国民に思われていることを一切排除し、厳しい党内改革を進める」と反省の弁を述べた。自民大敗の原因は「政治とカネ」にまつわる国民の不信が頂点に達したからだ。にもかかわらず、政治資金問題で非公認にした候補者が代表を務める党支部に公示と同時に2000万円を支給した。これが国民の怒りと不信を爆発させた。
 
 当選13回を数える石破氏が民意を感知できない訳がないと思うが、それがそうでなかったのは、党内の融和を優先したからにほかならない。記者会見で「法的には何ら問題ない」(が)「説明の仕方では反省点として強く持っている」と語ったのは国民感情からかけ離れている。世論調査(読売新聞)でも79%が「2000万円支給は納得できない」とし、自民支持層ですら66%がそう答えている。自公両党は比例代表の得票も減らした。自民は1458万票で現行制度下では過去最少。公明も596万票で600万票の大台を割る過去最少を記録した。その理由は、政治とカネ、物価対策など経済政策への不満だけではない。自公とも地道な日常活動の足腰が弱まったからだ。自民は小選挙区で2-3万票と言われる公明票なしでは当選が難しいとされる。その公明の支持層の高齢化も影響しているだろう。
 
 政治資金も企業や団体、パーティー券に頼るのではなく、一般の支持者からも広く集める。そのためには地域の核となる党員の地道な活動、地元の組織強化が必要だろう。その昔、内閣官房長官をしていた某氏が選挙区内の地区ごとの得票実績を記したメモを胸の内ポケットから出してそっと見せてくれたことがある。頭の中では票を入れてくれた一人一人の顔が浮かんでいたことだろう。地元で地道な努力をしている政治家は選挙に強い。政党の公募で見も知らぬ土地に舞い降りて人気頼りに当選する政治経験の少ない候補者とは違う。地に着いた活動をしていない候補者は逆風が吹くとあっけなく墜落するのだ。
 
 短命政権では長期展望を要する財政、経済、安全保障、外交政策に大きな障害がある。財政規律を無視して国民受けするバラマキ政策を並べるが、後の世代に大きな負担を負わせるだけであり、これほど無責任なことはない。日本を取り巻く安全保障環境は東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島などかつてないほど複雑で不確実性を増す。これに対応する防衛力の強化、日米欧を中心とする安全保障協力の枠組みなど中長期的な戦略を要する外交政策も短期政権になれば、日本を敵視する国からは軽く見られ、同盟国も協力強化に二の足を踏む。1991年の湾岸戦争当時のカネで済ました支援策、2009年から3年間で3人の首相が代わった旧民主党政権の対米、対中外交の失敗は一貫した戦略と政策を持っていなかった「即席政権」の欠陥を露呈し、日本の国益を大いに損じた。政権は部分連合などいかなる形を取ろうとも、国民の生命と財産を守る崇高な使命を帯びていることを石破首相は肝に銘じてほしい。
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