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2024-04-15 09:45

世界俯瞰の外交は可能か

鍋嶋 敬三 評論家
 岸田文雄首相が9年ぶりの国賓待遇で訪米、バイデン大統領との首脳会談、上下両院合同会議で演説した。そこで鮮明にしたのは日本が米国の「グローバル・パートナー」となった宣言だ。「控えめな同盟国から、外の世界に強くコミットした同盟国」、「地域パートナーから国際秩序を強化するグローバル・パートナー」として日米が協同する。日米会談と平行する形で日米比3ヶ国首脳会談を開き、同時期に日米豪比4ヶ国、日米韓3ヶ国の海軍合同訓練を実施した。「今日のウクライナは明日のアジアかも知れない」(岸田首相)と、ウクライナ支援を継続する決意で厳しい対露制裁継続のため、先進7ヶ国(G7)との連携も表明した。北大西洋条約機構(NATO)との関係強化を通じて欧州の安全保障にも関与する。AI(人工知能)や量子、宇宙開発など科学技術、供給網を含めた経済安全保障にG7を含めた連携の強化を推進する。

 日本と近く関係の深い東南アジア諸国連合(ASEAN)は米中対立をどのような目で見ているのか。シンガポールのシンクタンクのISEAS=ユソフ・イシャク研究所が4月2日に公表した加盟10ヶ国の研究者や政府当局者2000人を対象にした調査結果が興味深い。米中対立の中でどちらをとるかの質問に対しては、米国49.5%に対し中国が50.5%と初めて米国を上回った。2023年の調査に比べて米国は11.6ポイント減り、中国は11.6ポイント増えるという真逆の結果が示された。トランプ政権以来アジア、太平洋地域離れが進む米国に対して「一帯一路」政策や貿易、投資など経済的結び付きを強めてきた中国に軍配が上がった。日本の評価はどうか。「最も信頼出来る国」として日本が58.9%(前年比4.4ポイント増)に対して米国は11.8ポイント下がって42.8%と半数を切った。「米国を信頼出来ない」が10.5ポイント上がって37.6%になった。米国の退潮と反対に、日本への期待はさらに高まっている。中国への警戒も根強いものがあるからだ。グローバルに責任を果たす日本にとって、「地盤」の東南アジアから厚い信頼を得ていることは全世界での外交展開に向けて大きな力になる。

 11月の米大統領選挙でのトランプ再選の可能性について「もしトラ」や「ほぼトラ」論が巷間を賑わしている。「米国第一主義」の孤立主義を正面に出したトランプ政権登場(2017年)で対立を深めた欧州では「リベラルな国際秩序の終わり」と見る悲観論が強調された。ロンドンの国際戦略研究所(IISS)は2018年次報告書で同政権下の米国が「現在の秩序に対する最大の脅威になり得る」と規定した。戦後のリベラルな国際秩序を破壊しようとする点でロシアや中国に対してよりも強い危機感を示し世界に衝撃を与えた。トランプ政権の再登場になれば、バイデン政権下でかなり修復された米欧関係は、特にウクライナ戦争の処理をめぐり再び緊張が激化することは避けられない。さらなる混乱によって米国主導のリベラルな国際秩序は危機に陥る恐れがある。

 日米会談に先立って知日派のリチャード・アーミテージ元国務副長官、ジョセフ・S・ナイJr.ハーバード大学名誉教授(元国防次官補)が4月4日、戦略国際問題研究所(CSIS)から第6次報告書を発表した。「統合された同盟に向かってー2024年日米同盟」と題する報告書は「(バイデン、トランプ)どちらが大統領になっても米国の孤立主義への懸念は続く。日本にはグローバルなリーダーシップの責任が重くのしかかり、自由で開かれた国際秩序を支える日本の役割はますます重要である」と、日本の強い決意と実行力に期待を示した。米議会は党派対立と国民の分断でウクライナ支援の国防予算の決定もままならない政治的行き詰まりで外交戦略の遂行に支障が出ている。日本も岸田政権下の政治不信が極まり、内閣支持率は危険水域とされる20%台を記録した。この状況下でも日本は世界を俯瞰した大胆な外交戦略の展開を求められている。それが可能かどうか、年内に結果が示されるだろう。
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