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2023-11-03 10:25

ガザ危機をめぐりG7外相会議で日本が取るべき態度

篠田 英朗 東京外国語大学大学院教授
 ガザ情勢が悲惨さを極めている。閉鎖された空間に閉じ込められ、ライフラインが停止されている状況下の市民が住む町に、苛烈な軍事攻撃が継続されている事態の深刻さは、人類の歴史でも特筆すべきレベルだろう。来週11月7日・8日に日本がホストとなったG7外相会議が東京で開催される。これまでガザをめぐる危機には、目立たない態度を心がけてきたような日本だが、ホスト国としてG7をまとめ上げる立場にある。覚悟を定めて事態を直視してほしい。一般には、日本の「立ち位置」が話題となる。イスラエルとの連帯を重視するアメリカを安全保障上の同盟国として持つ日本は、常軌を逸したイスラエルの軍事行動を見ても、非難をすることを自重している。他方、中東諸国にエネルギーを依存しているため、パレスチナを軽視する態度は見せられない。板挟みになりながら、バランスをとっていることは、広く知られている。それで大丈夫か。G7外相会議ホスト国の役割はもちろん、今後の混迷を深める国際情勢を、日本は本当に乗り切っていけるのか。
 
 欧州諸国は、立場が分かれてきている。ガザに人道支援を入れることの必要性を訴えた国連総会決議に、フランスは賛成票を投じたが、その他のG7欧州諸国は、日本とともに棄権をした。アメリカは反対した。G7の大半の諸国が棄権した理由は、アメリカが反対した理由と同じである。ハマスの非道な行為に対する非難が入っていない、イスラエルの自衛権が明記されていない、といったことであった。ただそれでも棄権と反対に投票行動が分かれたのは、アメリカが断固としてイスラエルと連帯する姿勢をとるのに対して、他の諸国はより中立的に振舞いたいからだ。よく言われるように、G7諸国の国際社会における影響力は低下し続けている。それは端的にG7諸国のGDPが世界経済に占める割合が低下していることなどの客観的事情によるところが大きい。ただ、今回のガザ危機のように、世界の大半の諸国が賛成している決議に対して、G7の盟主が反対し、その他の諸国の大半も棄権をしているということになると、国際世論の面でも、G7が少数派側に転落していることが明らかである。

 日本が中立的な立場を捨て去ることなく、しかし受け身な姿勢から脱却することによって、劣勢のG7の存在感を高めることにも貢献できる道はないか。世界の大半の諸国により強くアピールするためには、当たり前のことだけでなく、さらに前に一歩進んだ対応をする努力を見せていきたい。軍事行動の停止を強く要請することが、イスラエルの自衛権行使の擁護にこだわるアメリカの賛同を得られないとすれば、アメリカも賛同するガザの市民に対する人道支援の充実策に関して、踏み込んで努力する姿勢を見せたい。現在、日本を含めたG7諸国は、国連などの国際機関を通じたガザへの人道支援に〇〇ドル拠出する云々といった内容の声明を発し続けている。残念だが、これでは効果が乏しい。なぜなら今問題になっているのは、人道支援をガザに入れられないことだからだ。問題から目をそらして、巨額とも言い切れない額面のお金を少しずつ積み上げて小出しの声明を出すことに官僚機構の労力を浪費してしまうとしたら、愚策だ。

 アメリカを通じてイスラエルに対して、自衛権行使を擁護する姿勢と引き換えに、人道支援をガザに入れることに対する理解を示すことを要請するべきだ。ただし単に乏しい量の人道支援物資をトラックで運んで倉庫に置いても、管理を行き届かせたやり方で適正な配給をすることは、極めて難しい状況だ。すでに限定的に入った人道支援物資が略奪に遭う事例も発生しているようだが、現在の過酷な状況では、むしろ必然的な流れであろう。軍事部隊のような物理的防御能力と輸送移動能力を持った組織による人道支援活動の保護が、必要である。G7諸国がガザに軍事部隊を展開させるシナリオは、非現実的かつ不適切だと言わざるを得ない。ガザの市民の間での信頼感が低い軍隊の介在は、事態をかえって混乱させる。しかし逆に、南アフリカやトルコなどの近隣とは言えない地域にありながら関心を持って事態の推移を見守っている諸国の政府が、具体的な貢献をしたい意思を表明している。10月初めに国連安全保障理事会は、ケニアの治安部隊を主体にした「多国籍治安支援(MSS)」部隊がハイチに展開することを認める決議を採択した。MSSは、国連PKOとしてではなく、重要な民生施設を警護することを目的にした多国籍警察部隊として展開する。ガザにおいても、和平合意がすぐに成立するような状態ではないため、国連PKOの展開は想定されない。しかし人道支援活動の警護に特化した多国籍部隊の派遣に、国連安保理が権限付与することは、もう少し現実的なシナリオとして議論の対象になり得るのではないか。展開してくれる国さえあれば、あとはアメリカが安保理で拒否権発動しなければ、決議は成立するだろう。アメリカが拒否権を発動するかどうかは、イスラエル政府の態度によって影響されるだろうが、まずはアメリカがイスラエル政府を説得しようとするかどうかによる。

 G7にとって重要なのは、国連PKOにおける堅実な実績があり、友好な関係にあり、しかもイスラム圏の諸国であるASEANのインドネシア、あるいはバングラデシュなどであろう。ガザに隣接するエジプトも、実は国連PKOなどの国際平和活動での経験が豊富な部類の国である。これらの諸国と連携し、国際的な活動を支援する姿勢を、G7諸国は見せていくべきである。それはガザの市民のためであり、G7の存在感の維持のためでもある。威信が低下しているG7諸国が、当たり前のことを確認するだけの声明を出し、しかも時代錯誤にも偉そうに説教くさい語り口で他者に責任を押し付けるような態度を見せながら、ただ主導権だけは握りつけたいといった姿勢を取り続けたら、その威信はさらに一層低下していくだけだ。憂慮する姿を素直に表現しつつ、謙虚に他の諸国と協力し、後方支援体制を充実させることに尽力したい姿勢を見せるべきだ。G7の中で最も穏健な立場をとりながら、ホスト国となっている日本が、ただ自らを埋没させ続けるような態度をとるのではなく、自らの立ち位置を活かしきってG7を国際協調体制の中に入れ込んでいくための努力を惜しまない姿勢を見せるのであれば、それは日本外交にとっても大きな意味を持っていくことになるだろう。
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