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2023-09-25 15:16

「交渉」の限界

荒木 和博 特定失踪者問題調査会代表
 月刊『文藝春秋』10月号に掲載されている飯島勲内閣官房参与の「横田めぐみさん奪還交渉記録」(以下「記録」と略)を読みました。これは今から10年前の平成25年(2013)5月、飯島氏が北朝鮮を訪問して北朝鮮の幹部(金英南・金永日・宋日昊)と交渉した内容を明らかにしたもので、最後に「岸田総理が『直轄』と宣言したことは大きなチャンスです。今こそ日本社会全体で日朝交渉の在り方を変えていかなくてはならない時なのです。この『会談記録』が一つのモノサシとして活用されることを願ってやみません」と締めくくられています。

 「記録」には色々な中身が込められており、もちろん書かれていないことも山ほどあるのでしょう。ともかくまともな交渉ができていないのが現状ですから、これが実のある交渉を促進することになってくれればと思います。こういう交渉ができる人はそれほど多くはいません。飯島氏はその意味で貴重な人材です。少なくとも口だけで「全拉致被害者の一括帰国」と言いながら何もしないのに比べればはるかにましでしょう。しかしその一方で、私は「記録」を読んで飯島氏とはほぼ正反対の結論に達しました。交渉が成功したとしても帰ってくる拉致被害者はごくわずかしかいないということです。
 
 タイトルの「奪還交渉」というのは編集部が付けたものでしょうが、ここに出てくる北朝鮮幹部とのやりとりはおよそ「奪還」にはほど遠いものです。東京の朝鮮総聯本部ビルがなくならないように努力したこととか、許宗萬・朝鮮総聯議長との親密な関係を強調したりとか、良くも悪くも北朝鮮との信頼関係を作って事態を前進させようとしたことが分かります。交渉においてそのような物言いをすること自体は全て否定することはできませんが、結局飯島氏の頭の中にあるのは今の北朝鮮との国交正常化です。北朝鮮が長年行い多数の被害者が出続けた拉致被害に対する怒りは見られません。いわんや北朝鮮における政治犯収容所や公開処刑、あるいは在日朝鮮人帰国者やその日本人家族に対する人権侵害については怒りどころか全く思考の外にあるとしか言えません。

 「記録」を読んで分かるのは、結局拉致された同胞を救出するために、「交渉」でできることはごくわずかしかないということです。軍事的なものも含めて圧力や北朝鮮内部への揺さぶり、あるいは恫喝をして事態を変えていかなければ結局大多数の人は死んでいくでしょう。もちろんそれは容易なことではないのですが、結局被害者を救出するためには力が必要不可欠です。なお、文中宋日昊・日朝国交担当大使が「日本からは(中略)生存者の全員帰国についても、特定失踪者は含まれないということを言ってきたこともある」と語ったことが出てきます。まあそうだろうとは思っていたのですが、拉致認定が増えないことの理由も結局はそういうことなのでしょう。いずれにしてもこの「記録」は飯島氏の言葉を借りれば、私たちが何をしなければならないか考える「モノサシ」であることは間違いありません。
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